せめて俺だけは


 花が咲くように笑うというと温かな印象がある。
 しかし花も種類によるのだなとミヒロの笑みを見て思った。
「ローゼがブワッと咲いた感じだな」
 森の中で花束を作りながら、俺は不満を口にする。
「笑えというから笑ったのに不満そうな顔しないでくれる? 俺の繊細な心が傷ついちゃう」
 夜の店にいそうな顔の男はローゼがよく似合う。香りも姿も華やかな花で、それが笑顔だなんて艶やかにも程がある。
 ただし、ミヒロだと何故か嘘くさく見えるのだ。
 俺は首を傾げる。
「白いローゼが似合いそうなのに」
「ローゼって薔薇のことだよな。白いローゼねぇ……」
 不意に優しい風が吹いた。
 ミヒロが小さく吹き出したのだ。
「白い薔薇の花言葉は純潔、私はあなたにふさわしい、深い尊敬だぞ? 俺が似合ってるんじゃなくてお前が俺に渡したい花だろ。薔薇なら変わり種の薔薇だなぁ。ドットだっけ」
 目を細めて口元を緩めたミヒロが穏やかで、さっきの嘘くさい笑みは何だったんだと思う。最初からそうして笑ってくれればいいものを……やはり俺は不満な顔のままだ。
 ミヒロは俺の顔を見て笑みを深め、花束作りに戻った。
「調べないでね、恥ずかしいから」
 照れ隠しなのかその後すぐ俺に背を向ける。
 それがなんだか寂しくて、ミヒロの背中がやけに遠く見えた。
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