魔法使いの生き様


 詩人と呼ばれるほど法術が巧みだったわけではない。
 小さく短くことばを紡いで法術が連発できる。幸運にも何度も戦場から生きて帰った。妹が聖女の資質を持っていて少しだけ目立つ。それだけで『できる』と思われていた。
 できると思われるだけ、俺のような戦闘要員は過酷な前線へ向かう。妹以外の家族はなく妹を守るといっては幼馴染と強がる。強いと思い込みだましだまし戦って、死んだと思ったらまだ生きていた。しぶとくて笑ってしまう。
「まだ生きてるのか……」
 思い出から生還して見上げると、膝をついた俺にガルディオが顔をしかめる。
 ほんの三年ほど前まで俺は戦場にいた。大きな爆発に巻き込まれ死んだと思ったらこの世界に引く抜かれ、こうして授業を受けている。
「そういう重たいの俺に背負わせないでくれる? この学園の授業でそんな物騒なことあっちゃまずいでしょ」
 屋内演習場の窓から差し込む穏やかな光を背に、ガルディオはエストックを俺の喉元から離す。
「だいたいね、そういうのは」
 これで今日の授業は終わりだなと身を起そうとした瞬間、喉元から離れたエストックが俺の目を狙う。
 このままでは殺られるなと察してすぐに俺は後ろに倒れ、演習場の床を二度叩き小さく呟く。
「展開」
 俺の声とともに床から石の針が複数現れ射出される。
 小さすぎてガルディオにはなんといったか聞こえなかっただろう。けれどガルディオは迷わず俺から離れ、石の針をエストックで叩き落とす。
「本気で戦ってからいってくれる? 俺、そういうの嫌いだから」
「そうはいっても……俺はお前が好きなんだが」
 ガルディオは俺を鼻で笑うと戦闘態勢を緩めた。
「うわー始まったよ。そういうガラでもない癖に」
 好かれているほうなのだが、ガルディオは俺に厳しい。付き合いが長くなったせいかまったく遠慮がない。
「お前こそ、どうして目を狙った?」
 殺気まで感じた一撃だった。もちろん俺の行動を見越してエストックを突き出したのだから、ガルディオは俺を本当に殺したかったわけではない。けれどそれならそのまま喉を刺しても良かった。
「刺しやすいし痛いし苦しんで欲しいしあわよくば生きてほしいので」
「あわよくば?」
「そう。苦しんでも生きて」
 ああ随分好かれているんだな。
 ニコリと笑って酷いことをいってくるガルディオを見ながら、俺はしみじみ思った。
「そんなに怒らなくても」
「嫌いって毎回いっても学習しないから仕方なくない?」
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