フォーは暇潰しに今回集まる理由になった議題を選んだ。
「中間成果発表の学年別チーム戦について」
 学園の学習期間は前期と後期の二つに分かれている。収穫期の終わりからまた収穫期が終わるまでの一巡の間を半分に分けたものがそれだ。
 その前期と後期の間には長い休みがあり、休みの前には学園で得たものを発表する期間があった。前期にレスターニャではもっとも寒い時期があるため、短いながら、その期間も休みになる。その期間の前に途中報告のような発表会があるのだ。前期の真ん中とは言いがたいのだが、これを中間成果発表という。
 この中間成果発表の内容は教師が決める。あるときは召喚獣を召喚して生徒を戦わせ、あるときは洋紙にまとめて魔法の研究発表をさせた。今回は生徒間で班を作り、魔性生物と戦うことを試験にしたいらしい。生徒議会に魔性生物と戦う時に必要な結界管理、怪我人の処置などを話し合ってもらいたいと打診があった。
「五学年全部一緒の内容なんでしょ?」
「だから、人手が足りないんだと」
 生徒議会は生徒の意見をまとめること、学園の雑務をこなすことが主な仕事だ。それは、議会だけでなく学園職員の仕事でもある。だから生徒議会がすることは大体決まっており、今回のような議題はあまりないものだ。
「なんでもっと勉学に励んだ内容にしないのかなぁ」
 議題を聞いて、少し嫌そうな顔をしたフォーの気持ちもわからないではない。時間を割かれそうな議題だからだ。しかし、魔法学園は魔法学園であるが故に、教師も魔法を教えることより研究することに力を注いでいるところがある。
 教師が生徒に教える理由は、教師によって様々だ。そういった研究のために手足が欲しいものから、教えることすら研究だと思っているものもいる。教育に熱心な教師もおり、金銭を得るために教えているものもいた。
 なんにせよ、教師にも生徒にも時間は等しく有限であり、身体は一つしかない。研究に時間を使いたい教師も生徒も途中経過に割く時間は少なくしたいものだ。そのため中間発表にあてられている期間は一日である。一気に魔法学園中の生徒の発表を終わらせるには教師だけでは手が足りない。
「さぁな。そのあたりは教師の会議で決まることだ。もっともらしい理由としては、たまには身体も動かすべきだとか、実践的な魔法を学ぶためにだとかあった気もするが」
「案を出すだけ出して、イズベル師あたりが面白そうだからとかって力押ししたんだ、ぜったいそうだ」
 イズベル師は王の魔法使いのうちの一人で、二代前の王とその地位を争ったと国民には伝わっている。しかし、イズベル師は楽しいことと自由なことが好きな性質で、王様などと面倒くさいといって、争いにならなかったと王の歴史には記されていた。
 そんなイズベル師は学園の教師の一人だ。王の魔法使いであるということ、学園でも長く勤めている一人であるということ、国での立場も強いということで、学園で逆らえる人間が少ない。
 フォーのいうとおり力押ししてしまえば、大抵のことは叶ってしまうし、一言『楽しそうだ』というだけで、中間発表の内容くらい決まってしまうだろう。
「誰が何をしてそうなったかはいいとして、今日中に決めてしまいたいことがいくつかある」
「でも、まだ二人が来ないんだよねぇ。護衛の二人も職務放棄じゃないかってくらい、俺たち放置だし」
 俺は放置の方がありがたいくらいだが、フォーはそうではないらしい。適度に構ってもらいたい気持ちがあるようで、たまにセルディナが付き合いたての恋人でもないのにと遠慮もなにもないことを言っている。セルディナもフォーが生まれたときからの付き合いだ。王族といえど普段は遠慮がない。
「こうなったら、ユキシロをもふもふして癒されるしかない」
「どうなって癒しに走っているかは知らねぇが、ユキシロが嫌がらない程度にしろよ」
「嫌がらないよねー?」
 フォーはそういって、再びユキシロに抱きついたり撫でたりし始めた。ユキシロは大変大人しいが、それは大人しくしているだけであって、尻尾を振っている姿はロノの隣でしか見たことがない。フォーが撫でることも嫌がっていない。だが、許さないではないという態度のようにも見えるし、無料奉仕のようにも見えた。
 フォーがユキシロを撫でている間、少し影が揺れるのはフォーが動くからだけでなく、その影に潜んでいるカゲナシのせいだろう。あとでフォーが必死になってセルディナの影に家出しようとするカゲナシを止める姿を思い浮かべ、俺は少し笑ってしまった。
「兄上、思い出し笑いはやらしいって言われるよ」
「俺がやらしいのは今更だ。ロノに堂々と誘いまでかけておいて違うとは言えねぇだろ」
「兄上、ほんと、ああいう冗談、初対面でやめといたほうがいいよ」
「半分は本気だ」
「なお性質悪い!」
 フォーが思いのたけを吐き出さんばかりにユキシロの腹の毛をかき混ぜるように手を動かす。ユキシロは少し首を傾げるように顔を傾けただけだった。
「何が、性質悪いんですか?」
 不意にかかった声に動じることなくフォーは答える。
「兄上」
「ああ、それは今更……」
 フォーがユキシロに相手にしてもらっている間にエルの用事が終わったようだ。姿を見せたエルはフォーの答えに、話を最初から聞いていたわけでもないのに納得したように頷いた。長年の付き合いから、俺の性質は悪いものと判断しているらしい。心外な話である。
「用事は終わったのか?」
 このまま俺に対する文句でも続けられたらたまらないと話題を変えるためにも、俺はエルに違う話を振った。
「はい、終わりました。今度の中間発表がチーム戦だと聞きつけたらしくて、チームにならないかと誘われまして……ラグ様が逃げた分まで実害を被ってきました」
 話を振る方向を間違ってしまったらしい。俺は首を捻ったあとフォーに助けを求めたが、フォーはこちらを見てほら見たことかと得意げな顔をするばかりだった。
 それでも俺はまた、違う話題を振る。議題が中間発表であるのだから、どうしても戻ってくることは解っている。だが、少しでもこの流れを回避したいのだ。
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