あの夢をみると、いつも二度寝をする。
今日という日は二度目も夢をみて、気分はあまりよくない。
一度目の夢は四年と少し前、二度目の夢は約一年前の出来事だ。
約一年前は、簡単に俺の世界が終わるような恋をしていた。
「今朝方、嫌な夢とかみたんだが」
いつもとは違って騒がしすぎる職場で、俺を見かけるとすぐさま、隣にいた花巻の頭を叩いて謝ってきた友人に、ポツリと呟く。
俺の不機嫌な様子に思わず謝ったのかと思い、謝ろうかと思って呟いたのだが、どうやら俺の不機嫌顔が理由ではないらしい。
友人である東加いわく、俺と大塚が喧嘩をしたのは花巻と東加のせいで、だから謝ってきたそうだ。
大塚とはおやすみのキスをして以来会っていない。
大塚と喧嘩らしい喧嘩をした覚えがなかった俺は首を傾げる。
大塚がやたらと不機嫌であったのは、おやすみのキスをした時が俺の記憶では最後で、あれくらいしか喧嘩といわれるようなものがないためだ。
俺が大塚を蹴って追い出す頃には、少しだけ機嫌が良かったくらいで、大塚と喧嘩をしたと思っていなかったから、寝耳に水である。
大塚に会っていないといっても、数日会っていない程度で、避けているというほど社会人は暇ではないこともあって、あれは喧嘩なのだろうかと悩むくらいだ。
俺は謝られているのはそのままにして、呟きを続けるようにして話題を変えることにした。
「お前らちっとも変わらねぇな」
「え、何、俺らの夢見たの?」
単純な花巻が俺の話にこれ幸いと乗ってきてくれたので、俺はそのまま続ける。
「一昨年の忘年会と四年くらい前のな。お前らの夢見たくて見たんじゃねぇよ」
四年くらい前の夢には花巻も東加も登場していなかったが、話題を変えるにはちょうどいい。
「一作年とかはいいとして、四年前とかなんの夢だよ」
「誰かの誕生日の。相変わらず馬鹿騒いでた」
本当は大塚を意識するきっかけになった時の夢であったが、そのあと馬鹿騒ぎに加わった記憶があるので嘘というわけでもなかった。ただ、そこまで夢は続かない。
「誰かって、誰……あ、もしかして、篠目の誕生日とか!」
何かと理由をつけては騒ぎたがる東加と花巻は、社会人になる前は誰かの誕生日のたびに騒いでいた。
俺は首を捻る。
「覚えがねぇよ。祝われた覚えが。他の誰かだろ」
「えーそりゃねぇーよー。お前の誕生日は誰のほっといてもやってたじゃん。人が一番集まるからやってたじゃん」
それは俺の人徳だといいたいところだが、本人が一番、違うと解っている。
ヤンチャをしていた時の名残から、俺の誕生日は、記念日のようなものなのだ。
なんだったかのチームを知人が俺の誕生日だからといってくれた。
くれたものを受け取って、なんだったかのチームがなくなったのも数年後の俺の誕生日だった。
だから、いつも人が集まる。
そして、俺の誕生日も有名でありながら、誰も祝わない。
「てめぇは祝ったことねぇだろうが」
「あ、うん、そだね。ないね。はるかぁー」
花巻が情けない声を上げた。何か自分が不利な流れになると、花巻は東加を呼ぶ癖がある。東加から、幼馴染だからって頼りすぎだと愚痴を聞いたことがあった。
「知るかよ。お前ちゃんと、謝れよ。ついでに言うと、俺はちゃんと、毎年、メール入れてるからな」
騒ぐのが好きな東加は、イベントごとも好きで、毎年親しい友人の誕生日にはメールを送ってくる。年始にはハガキまで送ってくるのだから、東加は友人の中の誰よりも出世できると昔から思っていた。実際のところ、本人が何も言わないため出世できているかどうかは謎である。