「本当、馬鹿な」
「反省している」
「お前、何に反省してんの?」
「遅刻してきたこと」
「いや、そりゃいいわ。お前喧嘩しなくても、遅刻するだろ。分かってんだよ。家出た時点で遅刻してるのに、のんびりコーンスープを空きっ腹にいれて、のんびり歩いてきてたのくらいな」
今年もフェイクファーがふわふわとして暖かそうなコートを着ているあいつは、首を傾げる。昔は頬にあたって暖かそうだなと思ったことだが、今は邪魔そうだなと思う。
「何故わかる」
「何故って、パターン化されてんだよ、お前の行動は」
「喧嘩することか」
「それもそうだが、遅刻するってあたりだ。お前との付き合いは何年か知ってるか、大塚」
「一年」
俺は首を振る。
恋人というくくりになってからは一年だ。
しかし、あいつ、大塚(おおつか)と友人付き合いを始めたのはもっと前だ。
「お付き合い始める前足せ」
そう言われて初めて、大塚は指を折る。
「おお」
小さく感嘆の声を上げたが、おおではない。
折られた指は五本。
そう、五年目くらいだ。
恋人になろうと、なるまいと、大塚は変わらない。人と約束しては遅れてくる。急ぐとか焦るとかいうこともない。
そして、悪びれることもなく反省したとかいうのだが、遅刻しなかったことなど一度もない。五年もあれば一度くらいあってもいいものだが、一度もない。
それで決まったように喧嘩をしてくる。
焦らないのは知っている。急がないのも知っている。だが、せめて寄り道せずに来てもらいたいものだ。
「それで、いうことはねぇか」
「意外と長いな」
俺は、そういう返事を求めていたわけではない。
遅れたなら遅れたで、取るべき態度があるはずだ。
「根性いれるか?」
俺は、大塚が来てからすっかりお留守になって、灰が落ちそうになっているタバコを灰皿に向けた。
「いや、ご遠慮しとく。でも、それくらい長い付き合いあるんだったらわかるだろ。俺は遅れてくる」
「偉そうに何言ってんだ。わかっちゃいるが、そう言われたら腹立つからな。わかってんのか?」
俺の心は広くない。しかし、大塚という男と恋人にしろ友人にしろ付き合うにあたり、かなり拡張されたと思う。いちいち大塚のすることに目くじらを立てていては、俺の精神衛生上によろしくないためだ。
大塚と付き合うには諦めるということ、大塚だから仕方ないということを覚えなければならない。
「反省している」
「いや、もういいわ。しなくていいから、お前、ワンカートンタバコ買って」
大塚は俺が灰皿にタバコを押し付けているのを確認してから、首を横に振った。
ファーストフードのテラス席で寒い中タバコを吸い続けた俺に、大塚は指を三本立てた。
「カートン」
大塚の小指が跳ね上がるのを見ても、俺は妥協しない。
「カートン」
親指が渋々起き上がった。しかし、俺は頷かない。
すっかり広がってしまった手のひらに二本指がついたとき、俺は妥協してやることにした。
「わかった。七な」
「引く二」
「七な」
「……金欠」
「お前はいつ会っても金欠だ」
俺はすっかり冷え切ったポテトの入った袋を大塚に渡しながら、立ち上がった。
「どこ行くんだ?」
「お前のせいで時間がなくなっちまったんだよ。遅刻とかいうレベルじゃなく遅刻してきやがって。俺は今から素敵なバーテンダーになりに行くんだよ。クソが」
「ああ、仕事あったなそう思えば」
ああとか腹が立つ言葉だ。ここのところ忙しいとかなんとか言ってまともに会う時間もねぇから、仕事前にでもといって俺に早起きさせたのはどこのどいつだ。