愛とは何かしら?



一応恋人になってから、大塚とは以前より親しくなったと思う。
以前は、友人といってもクラスメイトより親しく、いつもつるむには足りず、たまに会うその他大勢の一人だった。
空き缶に灰を落としながら、折りたたみ式のテーブルに置かれた皿を眺める。トーストとハムエッグが並んでいた。皿とテーブルに挟まれたメモには食えと書いてあるが、ハムエッグはまだしも、トーストは温めてうまく食えるものか悩む。
あまり悩んでも仕方がないと、電子レンジの中に朝食だろうものを無理矢理おさめた一枚の皿を入れ、適当にボタンを押す。コーヒーメーカーの容器に入ったコーヒーは昨日の朝方にいれたものだ。きっと大丈夫だと信じて、マグカップにそれを入れる。
電子レンジが煩く鳴る前に、ストップのボタンを押し、タバコを咥える。
トーストとハムエッグをマグカップと交代させると、再び電子レンジのボタンを適当に押した。
咥えておいたタバコは灰皿替わりの空き缶に押し付けて、ハムエッグをトーストにのせて食べてみる。
「パンかてぇよ…」
食べる前にタバコを吸ってしまったのもあまり良くなかった。おそらくもう少しは美味しく食べられるものだったそれは、あまり美味しくない。
タバコは食後に吸うに限るとしみじみ思いつつ、放置しておいたコーヒーを電子レンジから回収した。
コーヒーは大丈夫だったようだ。相変わらずいい香りである。
マグカップを口へと運びながら、俺はまだ朝食がのっている皿を眺めて、しみじみ思う。
俺と大塚は仕事の関係で生活のサイクルが違う。
大塚はだいたい昼過ぎくらいに出勤し、俺は夕方くらいに出勤する。大塚は終電くらいに帰宅して、俺は朝方に帰宅した。大塚はそれでも朝に起きて夜に寝ている。それとは逆に俺は絵に描いたような昼夜逆転生活を送っていた。 こうなると、二人が時間を合わせるにはどちらかの休日を狙うか、どちらかが無理をするしかない。
大塚に誰かに合わせるという行動を期待することはできない。友人づきあいをしていた頃から気がついていた俺は、大塚と会うとなるといつも早起きをした。
普通に朝起きて、夜に寝る人よりも遅い時間に起きるのだが、それでも昼下がりに起きる俺は、何時間も早くに起きなければならない。面倒だし、眠たいし、いいことなど一つもないと思っていても、大塚に会わないという選択肢を取ることはなかった。
こうして朝食がテーブルの上に置かれているのも、起きてすぐに飯など食わない俺と、朝飯は何がなんでもきっちり食う大塚との違いだ。
そんなことを知ることもなかった恋人になる前の四年間。
そんなことを知ってしまっても、面倒くさいと思いながら、時間を合わせたり、律儀に飯を食っている現在。
トーストは固いし、温めるのも面倒だし、ハムエッグだって焦げている。作ってくれるだけでありがたいのだが、うまいとも言えない飯を食う俺は、正直、大塚が大好きなんだろう。
どうしてこんな男が好きなのだろうと思うことのほうが多いというのに、大好きとしか言い様のない行動を渋々ながらしてしまうことが癪だ。
飯を食いながら、携帯電話で時間を確認しようとして、メールに気がつく。
大塚と共通の友人からのメールだった。
暇つぶしに電車内で作成されたと思われるメールは、今度仲間内で新年会があることを知らせてくれていた。
俺は、新年会の参加の有無だけを返信欄に託すと、メールを送信する。
やたらと熱いコーヒーを啜ったあと、朝食を詰め込み、少し部屋でのんびりしてからアパートを出た。

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