ヒースが難しい顔して思い悩もうが、レントが俺に呆れようが、俺にはいくつか選択肢があるんだな。と、呑気に軽い調子な先輩方を見て、俺は気付いたわけだ。
まず一つは、リオラ先輩を倒して夢から覚める。
残念ながら、リオラ先輩は最凶だと思うので、俺に退治は無理だ。裏切りとか、それも無縁だろうし。
もう一つ、ヒースを倒す。
これはもうすでにクリアしたも同然なので、よしとする。
倒すというのは、殺すとイコールじゃない。あとから後輩がお話を盛ってくれればいいわけで、ヒースがいなくなりさえすれば、すでに後輩のなかでいけすかない野郎と化しているヒースは、すぐに倒されたことにされるだろう。
しかし、これだけでは勇者伝説はおわらない。
とりあえず勇者はもっと功績を残さねばならないものらしい。
もし、このまま勇者伝説を続けるのなら俺はかなりのボランティアをしなければならない。
その前に目なんて覚めそうなもんなのになぁとおもう。
夢はなかなか、自分の意図した時に覚めてくれないものだ。
それで、あともう一つ。俺は何もしないで学校生活を謳歌するという方法がある。
それはそれで楽しいかなとも思えるので、どれを選んだものかとおもう。
いずれは覚める夢だ。いい夢で終わらせたいという思いもある。
でも、とりあえず今は、身近に迫っているピンチというか、廃人になりそうになっているガルディオ先輩をこの場所から離して、世界が混じるとかいう面倒くさい現象をどうにかしなければならない。
そして、それをどうにかすべく、先輩方が動いてくれたわけで。
「いや、それにしても派手なご登場ですね、ミハイル先輩」
上空から竜にのって。
なんてこの人くらいでしょう。と俺は思う。
ニコニコと、リュスト先輩曰く、天使の微笑みでやってくるミハイル先輩。
リオラ先輩が最凶ならば、この人は最強がふさわしい。人当たりがよく白金の髪も柔らかくひかり、メガネをかけていておっとりしているように見えるミハイル先輩。
俺より実は身長が高い、ミハイル先輩。
実はやることなすこと豪快なミハイル先輩。
細かいことも笑い飛ばすミハイル先輩。
そう、大雑把なミハイル先輩。
そこに何があろうが適当に着陸。
ニコニコ笑いながら、連れてきたよーと、竜の背中ですっかり乗り物酔いしている連中をおいてやってきた。
ああ、可哀想に。
「ミ、ミハイルくんッ」
嬉しそうに走って、まずまっさきにミハイル先輩をお迎えしたのはリュスト先輩だ。
ミハイル先輩は抱きついてきたリュスト先輩をそのままぶら下げて、こちらまでくると、二回指を鳴らした。
一瞬にして竜が消えて、竜がきえたそこに別の動物がいた。
急に落とされた連中は、何かふわもこした動物の背に乗ってこちらに。
あんな高いとこからこわかっただろうなぁ…。
「四の五のいうから、ぶん殴って連れてきちゃった」
言ってることはひどいのに、キラキラ輝かんばかりの笑顔でいうから、何を言っているのか理解しがたい。
これを天使というリュスト先輩の目はすごい節穴か、それとも、自分に優しければそれでいいかのどちらかなんだろうなぁ…。
「よくやった」
アルカイックスマイルでよくやったとか言ったリオラ先輩はこういうことを予測して役割分担したんだろう。
「タチ悪い先輩たちだよねぇ」
ふふふっと笑ったガルディオ先輩だって例外なくタチ悪いですから。とはいわない。
命が惜しいから。