午後の授業はイヤミを言われながらも山に、芝刈り…ではなく、テイムしにやってきた。
三々五々ってこういうのを言うんだろうなぁとのんきに散らばっていくクラスメイトを眺めたあと、山を散策というか、テイムする生き物を探しにというか。
「探す必要などありませんよ。私がいるのに」
「いや、自分以外がテイムされてるの嫌なのはよくわかるよ。セッカに対してもそうだから、わかる。わかるんだけど、授業くらい真面目に受けさせてください」
その結果テイムするかもしれないけれど、そこは置いといて。
先にテイムされていたセッカは仕方ない。
しかし、これ以上は許さないとヒースがブツブツ俺に言ってくる。
今回の授業内容は、午前中に学んだことを実践する。というもので、テイムの仕方が違うとかテイムできる生き物が違うだとかそういうものだ。
今まで学んできたもので得たのがセッカや、中途半端にテイムの契約をしているヒースにあたるのだが、今回のテイムは一味違う。
自分に、最初から明らかに敵意を持つ生き物をねじ伏せ、テイムする方法で…リオラ先輩が得意としている方法だ。
ヒースが明らかに敵意があってねじ伏せたに当たるのかもしれないが、契約が本当に中途半端だし、多数の人の手を借りたし、契約内容も普段とはかなり違うため当てはまらない。こういうどの形にもあてはめにくい方法はガルディオ先輩が得意だ。
セッカは最初から割と好意をもってくれていたのをセッカの条件に従いテイムさせてもらった形になる。これは、ミハイル先輩が得意だったりする。
それで。
リオラ先輩が大得意とするこの方法は、多くの生徒があのようにうまく従えることができず、それこそテイムという契約で使役しているという感じが強くなる。
それなので、リオラ先輩みたいにテイムされた生き物たちが身を投げ出してまで守ってくれたり、信頼をおいてくれたりは、ほとんどないことらしい。
らしいというのも、俺はリオラ先輩をみてきたため、あまりそういった現場にお目にかかれないのだ。
「だいたい、自分に敵意アリアリの生き物をテイムとか…俺に出来るわけないし」
好意で飛び跳ねて喜んでこっちにずんずん迫ってきたセッカですら、逃げ回ってやっとのことテイムしたような俺に。
せめて真面目に授業受けていますよってポーズはしておきたい。
「何を弱気なことを…あなたにできない訳がないでしょう?」
この授業の課題をやらせたいのか、やらせたくないのかわからない。そんなヒースに思わず微妙な顔をしたあと、俺はセッカを呼び出す。
「セッカ、そこの人が俺の邪魔しようとするの邪魔して」
嬉しそうに大きな姿になって、飛び跳ねヒースと俺を離そうとするセッカは、ヒースとは仲が良くない。
「この…毛むくじゃらの分際で…!」
このまえは毛もじゃとかいっていた。セッカの毛足が長いの、実は羨ましいんじゃないかとちょっと思ってしまう。真っ白だし、ほわほわだし、触り心地最高だし、顔うずめたくなるし…なるほど。嫉妬するに値する。
セッカがヒースを遠ざけている間に、とりあえず生き物を探す。
山の中は動物が多いと聞くが、どうも、ヒースが威嚇してくれていたらしく、一匹も見当たらない。
俺はこんなに弱そうで襲って食うにはてきめんじゃないか。身体に悪そうだけど。
いや、もちろん食べてもらっては困るので、美味しそうじゃない。を主張したいが。
好意を寄せてくれるタイプの生き物をテイムしていくことが得意なミハイル先輩は、この手のテイムが得意ではない。だが、この手のテイムをしたことがないわけではない。
「先輩なんていってたっけか…」
ありがたい先輩の言葉を思い出そうとするが、思い出せない。
実践は山で行われる。
しかし、山で留まる生徒なんてほとんどいない。
自分のテイムした生き物に手伝ってもらって、どこかに探しに行ってしまう奴らばかりだ。
俺に非協力的なヒースはもちろんそんなことはしてくれないし、俺に協力的だけど移動にはむかないセッカは、ヒースを牽制するのでいっぱいいっぱい。
ここは俺が頑張って見つけるしかない。
しかない、のだが。
「人っ子一人さえみあたらない…」
俺に敵意を向けるネズミがキーキーいっててくれてるとか、そういうのないんだろうか。いや、あの歯でかじられたら痛そうではあるが。
そうこうしている時だった。
背中を後ろから痛いほど突かれた。
かとおもうと、俺は地面から遠ざかっていた。
「え。お。あ…?」
訳がわからないし、背中は痛いし、なんかぎゅうぎゅう閉まるし、とにかく地面が遠い。
俺はなんとか俺をぎゅうぎゅう締めてくるものをみた。
上からなんか空気の抵抗感じて、しかもまだ地面が遠ざかってるし、白い塊と、ヒースっぽいのがみえるけど、ああ、気を失ったら負けかな。
俺をぎゅうぎゅうと熱烈に抱擁してくれるそれは、太い枝みたいな、というか、なんかこう…トリの足のような…もしかしてでっかい鳥ではあるまいな。
と、見上げようとするけれど、それもうまくいかない。
とりあえず、体毛は、自然界ですごく威嚇してくれてるだろうけどすぐ見つけられそうな、青。
地面がますます遠いけど、捕食されるにしても、殺してくおうと、上空から落とされませんように。
願うばかりである。
俺のピンチを悟ったセッカとヒースが見上げているが、セッカはビョンビョン跳ねるだけでとどかず、ヒースは羽を出しているものの、首をかしげている。
何かおかしなことでもあるんだろうか。
とにかくできたら巣まで持ち帰ってくれますように。と願うしかない。
いや、もちろんこのままでは食われてしまうということなのだろうけれども。だから、食っても美味しくないですよ。マジで。
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