助走の前に失速


ガルディオ先輩がいないからという理由ではないと思うのだけれど、いつもガルディオ先輩がチクチクチクチクイヤミを言われている先生にイヤミをいわれながらも授業を受け、たまにクラスメイトにクスクス笑われ、お昼休み。
俺は食堂にいた。
実はクラスにはあまり馴染んでない。
現実逃避に忙しく剣を振り回していたため、クラスでお友達をつくりそこねたということもあるけれど、ガルディオ先輩が俺を家族の一員にしてくれたおかげで、浮いて浮いて。
何度も言うようだが、俺の属している一族は非常に濃くて厄介とされている一族なのだ。
だからといってミハイル先輩は当然のこと、ガルディオ先輩やリオラ先輩に友達がいないというわけではない。
リオラ先輩はもともと大勢で騒ぐタイプでもないし、少数で満足するタイプで、サモナー、シーラー、テイマー、三つからバラバラに二、三人ずつ友達がいるような感じだ。
ミハイル先輩はそれとは逆で、ごく親しい友人が数人、知人以上友人未満がたくさん。これはミハイル先輩の人柄だろう。
ガルディオ先輩は…シーラーみたいなテイマーの名にふさわしく、その手のお友達を各所につくり、歩けば挨拶される程度には友人っぽい人も多い。親しい友人となると、特に居ないようであるけれど。
俺はそのどれでもなく、クラスに友達がいなければ、まさにレントだけが友人。といってもいいくらい友達がいないというかレントしか友達がいない。
先輩ですら片手と少しで足りてしまう。
あまり人と関わりをもたないタイプ。というのではなく、本当に狭い範囲でしか行動をしていなかっただけなのだ。
そんな俺にヒースという契約獣…なのか人なのかよくわからないが、とにかくヒースと契約したことによって、非常に目立ってしまっている。
なぜなら、人の形をしているものを契約してくる奴なんていないからだ。
しかも、契約上、ヒースはとても自由にしていられるようになっているだけなのに、ヒースが俺に毎日毎日ひっついてくるものだから、はべらしているとか言われて肩身が狭い。
開き直るにはまだ、時間がたっておらず、俺は昼休みになるたびダッシュで食堂に向かう。
そこで、ヒースと飯を喰う…のが、最近の日課だ。
「ぼっちですか?」
ヒースが答えにくいことを聞いてくる。
なんだかんだ最初は毎晩襲われ、なんとか逃げ続けていると、週に四回くらいに控えてくれたんだけれど、それにしたって、まだ週の半分以上も俺を襲ってくれているヒースには俺に対する思いやりだとか恋愛感情だとかはほとんどない。
大きなプライドと服従したい欲求、すこしのときめきはあるらしい。
ときめきがほんとう、小指の爪ほどしかないけど。
惹かれているの大幅な分布が、服従したいだと知ったときは、命令さえしておけば下のお世話とかされないと確信した。
未だに襲われるのは、俺の命令しなささによる欲求不満のようなものらしい。
「いや、レントとか先輩とか…」
「ぼっちですね」
そういうヒースは着々と友人をつくっている。
友人というか下僕、のような気もしないでない。そういうところがリオラ先輩と似てるけど、そういう特色なの?といったら、むかれそうになった。
激しく否定したかったらしい。
「いや、だって、異世界とか、信じてなくて、なのに、やっぱり異世界というか。どうしていいかわからなかったから…」
「今は別に戸惑っているようにも見えませんけど?」
「あ、うん。なるようにしかならないかと思ってて」
そう言ってうどんのような麺類をすすり、ため息をついた。
昔はそれなりに悩んだのだ。
悩んだのだけれど、もうすでにその頃には俺の世話係で相談相手みたいになってたガルディオ先輩が、言ってくれたのだ。
なるようにしかならないし、もう違うとか違わないとか、どうでもいいやってなげちゃえばいいよ。
帰るとか帰れないとか、考えてる余裕も時間もないし、考えなくてもそのうち帰れるよ。みたいなことも言われた気がする。
「じゃあ、友人づくりもなるようにしかならないと」
「あー…それは、放棄してるから、なるようにもならない」
うどんの汁みたいなスープすすって、こちらの世界の香辛料を足したあと、首をひねる。
「だって、友達になりたいなーって思う奴がいないから」
いいやつだなーと思う奴は結構いるのだけれど、なんとなく、友達になろうと思うことができない。
先日ちょっと悩んだことを思えば、夢の中の人なんて友人にして、夢から覚めて、もう一度同じ夢がみれなけりゃ永遠の別れなわけで。
連絡も夢じゃとれないし、同じ場所でもなければ、遠い場所でもない。つながってさえいない場所にいる人間と親しくなって、あとでどうすんのって、セーブしてたのかもしれない。
それが、俺の友達になろうと思えない。なのかもしれないし、そうでないのかもしれない。
「主がそれでいいのなら、いいと思いますが」
「元の世界にはいるし」
元いた世界にはそれなりに友人がいて、それなりにだらだらして、それなりにビビりって言われて…。
「…どうしてるんだろうなぁ」
体感時間を考えると、俺なんてとっくに行方不明者。 まだ探してくれている人もいるかもしれないけれど、とうにそんなやつもいたね。と思ってる奴もいるかもしれない。
それも、目を開けば数時間のことで、体感時間なんてなかったことになってしまうんだ。
だから、この郷愁も、俺だけなんだろうな。と思ったら、ちょっとさみしくなってきた。
うどんっぽいものがなんだか辛い気もするくらい。
「香辛料、入れすぎでしょう」
「……やっぱり?」
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