ついでにテイム契約してくれたら、食うには困らせないといったら、青い鳥は簡単に契約をしてくれた。
不満タラタラなのはヒースで、助けたのにお初は貰えないし、さらにはテイムまでしてしまった俺に、文句を言いたげである。
青い鳥には約束通り、学校にあるテイムされた動物用の食肉を模した食べ物を渡してひと安心した。ドッグフードのようなもので、栄養面、食べごたえ、味、すべて素晴らしい出来。らしい。
ちなみに、青い鳥は、水鶏(クイナ)…青だから、水という安易な考えでつけた名前だ。クイナはそれを知らないから、まさか泳ぐ鳥だととは思ってもいないだろう。
初めての名前に、少々嬉しそうではあったが。
飯を食ったあと、クイナは至って穏やかな様子で、今回は呼び出されず活躍することの出来なかったセッカと何か話しているようだった。
そのせいで何故かクイナは普段、はやぶさと同じ大きさの鳥になることになった。小回りがきいていいかもしれないね。が俺の感想だった。
『この恩は忘れない。さしあたってはそこの変態からお前を守ろう』
クイナは非常に義理堅いらしく、そんな嬉しくなることまで言ってくれた。先ほどのちょっとの間でヒースが既にクイナの中で変態と位置づけられてしまったのは残念ではあるのだが、本当にそうなので仕方ない。
「卵生の分際で…」
『ほう…羽があるくせに陸上生物である貴様に言われたくはないな』
バチりと何か火花が散った気がする。
クイナをテイムして一番ご満悦だったのはセッカで、俺の頭の上で前足をビッタンビッタンと嬉しそうに動かして、近頃ないくらい上機嫌だ。
おそらく、クイナとヒースが喧嘩してくれることで、主人の独り占めができることが嬉しいのだろう。好かれているのは嬉しいが、前足が少し痛い。
「リオラ先輩、セキヤくんも着々とテイムしていってますね」
「あいつの場合は動物園じゃなくてハーレムっぽいけどな」
クイナの噂を聞きつけたのか、俺がのんびりとテイムした連中に囲まれている時に、人に避けられながらもやってきた先輩方にそんなことを言われる。
「…動物園ですよ」
「どうだか。とりあえずそこの鳥はなんて言うんだ?」
「クイナです」
ふうん…と、リオラ先輩が頷く。
嫌な予感だ。
「クイナ、ヒースのように人の形になったほうが、普通の鳥の姿だからといってそれに遅れを取ることもなくなるぞ」
『…人の姿に興味はない上に、それが可能だとは思えないし、遅れなどとらない』
「ヒースができてお前にできないことじゃない。方法がある」
『……』
「ヒースにもできることがお前にできないだなどと、癪だろう?」
『…きこう』
「ふん、人間の形になったからといって、俺に勝てるわけでもない」
リオラ先輩は、たぶん今までミハイル先輩のテイムした動物にも、自分自身のテイムした動物にも、そんなことは教えていないはずだ。
何故俺に限って教えてくれるのだろうか。
もちろん鳥に守られるより、人間に守られたほうが、体積の関係上都合がいいのは確かだ。
元の姿になったら部屋にはうまく入らないだろうし、普通の鳥のサイズだと人間の形をとったヒースより小さいことがネックになってくることもあるからだ。
「…と、いうわけで、これから夜までにみっちり教えておくから、クイナかりるな?」
「え、あ、はぁ?」
「…リオラ先輩を止めたほうがいいと思うんだけど…」
ミハイル先輩が小さくつぶやくのが聞こえた。
そのあとに続く言葉は分かっている。
無理だよね。だ。
リオラ先輩を止めるのはミハイル先輩の全力をもってしても不可能に近いのだ。
「どんな姿になるか、見ものだな」
ヒースの言うとおり、人の姿になったらどうなるのか。というのは少し興味があるが、リオラ先輩がどういうつもりでそうしてくるのかがそれより気になる。
まさかとは思うが、ほら、ハーレムだっただろう?と証明したいのだろうか。
…そうである気がする。
けれど、クイナは恩を感じてくれているだけで、ハーレムに加わる要素がないし、ヒースのような変態性も見当たらない。
「まぁ、これで、アルジの友達は増えましたね」
俺の隣にいるようになって、友人のことであるとか、俺がぼっちであるということとか、聞きにくいことは聞いてくるし、独占欲丸出しだし、襲ってくるけれど、ヒースはヒースなりに思うところあったらしい。
「……それ、ちょっと気にしてくれてる?」
「さぁ、どうでしょう」
「うん…そうか、ありがとう」
気にしてくれているのか、くれていないのかはおいておいて、少し嬉しいと思ったから、それをそのまま言葉にすると、ヒースが俺を見て、妙な顔をした。…きゅん…ってした、みたいな顔。見るんじゃなかった…。
「ああ、これは…ハーレムじゃなくても、ハーレムになるね」
ミハイル先輩までそういうので、俺はどうしようもなく気分が下降して欝になった。
俺の頭の上のセッカだけがいやに元気で、ちょっと癒されたよ。
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