ファルナの話は、とんでもなく美形な異世界ご家族がいるという噂から始まる。
長男は少し影のあるクールで人を寄せ付けず、孤高の存在で、異世界出身でありながら、まったく異世界の存在を感じさせないミステリアスで狼のような美形。
次男は微笑みの貴公子と呼ばれており、その笑顔は暖かく誰もを慈愛のある表情で見つめる。繊細そうでいておおらかで、懐も深い。誰もに平等に接する王子さま。
三男はフラフラふわふわとしており、捕まえ難いプレイボーイ。浮名は流すものの、その実態ははっきりしておらず、心は誰にも明け渡さない、頑なな男。チャラけて一見は親しみやすい美形。
そんな美形家族に加わった俺。
しかも、三男が選びに選んで決めた異世界人。
三人の兄たちが溺愛する美しい花の顔ばせ、文武に優れており、魔法を使えば超一流。こちらの世界に馴染めない繊細な性格で、兄たちが彼が傷つかぬように守っているという。
「え、その人誰?」
思わず聞いてしまうほど、ご家族像も耽美な世界だったのだが、三人が溺愛する末っ子とやらが、俺のほかにもいるんじゃないかというくらい別人であった。
「うん、私も結びつかなくて、言われて初めて気がついたよ」
「おもしれェー噂だよナァ?」
長男であるリオラ先輩はどこかの先輩に悪魔といわれるほどの人で、人間ではないらしいのだが、狼のようなとは誤解がある。
人を寄せ付けないのではなく、人がよってこないほどの自分を貫いており、孤高というほどひとりでもない。
次男であるミハイル先輩は確かに微笑みの貴公子と言われてもいいくらいの人だが、おおらかというよりも大雑把で適当。懐は広そうだが、門戸は開いていても、肝心要の部屋にはたどり着けない仕組みだったりする。
三男は心は誰にも明け渡さないというより、すでに心は一人に捧げてしまったので、他に差し上げるものがないというだけというか。その一人を付け狙う様はまるで蛇のようであったりする。
三人の兄に守られているのは確かだし、この『家族』だの『一族』だの『兄弟』だの言われているシステムはそれを目的としている。
守られてはいるが、そんな深窓の令嬢みたいな守られ方はしていない。
こちらの世界に馴染めなかったのは本当で、ひとしきり現実逃避をした結果、剣を扱うようになったわけだ。
だいたい、花の顔ばせとか男に使う表現じゃないと思うし、美形ではないし、文武には優れていないし、魔法は使えない。テイムも三匹って優秀じゃない部類に入る。
「……ご期待にそえませんで…」
「いやいや、そんな可憐な少女みたいな少年が一緒だったら、私も気をつかったから、これはこれで」
「ファルナは意外と竹を割ったよォーな性格で」
いい女の子とグループになれてよかったなぁと、おもうと同時に、その噂を何とかしなければと思った。
何故ならすごく痒い気持ちになるから。