ゴール地点が見えません


ミハイル先輩は人格者ではない。
リオラ先輩が一族に加えたくらいなんだから、それなりにいい性格をしている。
理解しているつもりだった。
俺は険しい獣道を歩きながらポツリと呟く。
「ピクニック…」
「ハードなピクニックだナァ…?」
偶然なのか、それとも態とそうしてくれたのか、俺はレントと同じ登山グループだった。
そう、登山だ。
登山をすると学校で聞いたとき、遠足だなと呑気に思った。
しかし、高校生くらいの、しかも魔法だの武器だのを使って授業を受けたりする学校の遠足は一味違った。
道なき道を一泊二日でどーんと登りましょう。
道は自分で切り開くものですよと、いわんばかりの登山だった。
スタート地点は皆ランダム。
グループをくっつけるも自由、離れるも自由。
そんなこんなでスタートした登山。
一泊二日は遠足というか、キャンプじゃないのか?といいたくなる。
山頂で一泊とかならまだしも、途中のキャンプ地でキャンプときたものだ。
遠足じゃない。ましてピクニックですらない。
ピクニックはミハイル先輩のイヤミに違いない。
「しかし、離れるも自由とか…登山としちゃ失格だっつうの。山舐めんな」
「そうかもしれないけどォ?魔法使い放題じゃ離れたい放題だろォし?好きなように組みたい放題ダロぉし?」
「そうよね、普通はそうなのよ」
深く頷いたのは、俺とレントには似つかわしい可憐な少女だった。
ショートボブのふわふわとした小さくて細い女の子はたいへん可愛らしかった。『よろしくね』と微笑んでくれた時は、思わずこちらこそといいたくなった。
いや、実際言った。
彼女は最初に自分の召喚できるものについて話をしてくれた。
彼女は小さな召喚門しか開けないため、小さな生物しか召喚できないと言ってくれた。
それに感化されたのか、グループとしては当然なのか、レントもシールの説明をしていた。
なんでも、移動系のシールは今持っていないということだ。
その説明に、彼女は頷いて、俺のテイムしている生物について聞いてきた。
俺は三匹テイムしているが、一人は大変なわがままであり、一羽は獣道で怪我まみれになるだろう巨体の持ち主で、あと一羽は最近やけにつかれて帰ってきたため、用を聞いてもらうことができる状態ではないと説明した。
「自力で登るか、どこかと合流するしかないわね」
彼女…ファルナがそういってため息をついた理由を、スタート開始早々に理解した。
皆召喚した生き物にのったり、移動魔法をつかったりして移動しているのだ。
「わがまま野郎が機能したら問題なかったんだけど、ごめんよ」
「んーん、セキヤくんは悪くないよ。だって、私も、こういっちゃなんだけど、それだったら自分で歩きます。って思ったもの。体力つけるにはいいわよね。それに、自力で登ったって夜までかかるとかいうわけでもないし」
スタートから最適なルートを探すため、小さな鳥を召喚したファルナはいい子だった。
いい子だったのだが、俺が浮かれているというのを見て理解したわがまま野郎こと、ヒースが散々イヤミをいってくれたのだ。
思わず強制的に学園の寮に送還したくらいにはひどかった。
ヒースの心が狭いのは今に始まったことではないが、クイナをテイムしてからというもの、更に心が狭くなった気がする。
「ま、アレは俺とかファルナとか乗せるなんてしないだろォーし。セッカとかじゃこの獣道可愛そうだもんナァ…クイナとかが一番よかったろォーけど?なんかくったくたになってたヨナァ?やっぱ、リオラ先輩のセェ?」
俺が頷く前に、ファルナが驚いた顔で俺を見た。
「え?リオラ先輩って、あのリオラ先輩?ミハイル先輩とガルディオ先輩とご家族の?」
「あ、うん、俺の家族で」
「あ!君が噂の末っ子くんだったのかー!」
噂ってなんぞや?と首をかしげると、レントが実に楽しそうに笑った。
「本人って意外と噂とか知らないよね。知りたい?」
ファルナもニコニコと楽しそうに聞いてきた。
ちょっと知りたいが、知りたくない。
噂なんてきっと尾ひれ胸びれ、背びれついてて当たり前のものだ。
その上、俺の知る限りでは先輩方はいい意味の噂より要注意といった噂の方が多い。
俺はちょっとネガティブなところがあるため、悪い噂に違いないと思ったのだ。
しかし、ここでいいといっても、後で気になるのも解っている。
聞いておくことにした。

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