「あーないない。ガルディには、国を救うだとかいう大層な志はないな」
リオラ先輩にガルディオ先輩のことを聞けば、リオラ先輩は軽く言い切った。
「だいたいな、昼間の話、又聞きしたんだけど、お前、少しも戦うことできないとかいったんだってな」
そして、鼻で笑った。
「そいつもなんで気がつかないかねぇ。サモナーだから?テイマーなんぞ戦ってしかるべき連中だぞ。まぁ、ビビリなのは置いといて、だが」
ビビリだって、命がかかりゃ戦うっつーの。と笑うリオラ先輩は槍を得手とする。蛇を串刺しにしては服従を迫る先輩は非常に恐ろしい。いつか裏切られますよといったところ、そんなヘマはしないと答えてくれた。そう言ったとおり、リオラ先輩に服従させられている動物たちはえらく嬉しそうにリオラ先輩に従う。調教ができているからな。とはリオラ先輩談だ。
動物たちをテイムするには、動物たちに契約する意思がなければならない。
時に戦い、勝利しなければその意思を得られない場合もある。
戦闘を得意とする獣にはこれが多く、何か魔法を使うことを得意としている獣には嫌われる方法である。
動物の特性によって攻略方法は様々である。
無条件にそれらに好かれてしまう連中も居るのだが、そういうのは稀なので、普通はそれなりに戦闘力を必要とする。
もちろん、テイマーには戦わないで動物たちをテイムするやつだっている。けど、動物は大抵、警戒心をあらわにしてくるので、せめて動物に襲いかかれたとき、逃げるくらいの力があるか、誰かに守ってもらわねばならない。
そして、動物たちはだいたいが自分でなんとかできる奴が好きである。
だから、だいたいのテイマーは何らかの戦う手段を持っている。
戦うなどできないといった俺も、だ。
「これバレちゃったら、是非、とかいわれちゃうんでしょうかね」
「さぁな。俺は王子くんとやらにあったことがねぇし。だいたい、あの国が滅びかかってんのは大型召喚獣の中でもすげぇ力を要するやつが原因とかいってんだろ?ガルディはそれが違うっつってるし。王子くんについてって、ついでにそいつを手篭めにしてテイムしちまって、あとはガルディに全部なげちまえば?とかおもっちまってるし」
いや、さすがにそれは無理だろうとか思ってたら、黙っていたミハイル先輩がうんうんと頷いていた。
「そうだよ。やっちゃっていいと思う。僕らも協力は惜しまないし。ガルディくんならできるんだろうしね。ここにはそういう呼ばれ方しかしないから…」
羽がついたネコもいっていたが、この世界には意味なく呼ばれる。ということはないらしい。ガルディオ先輩が先輩のいた世界の召喚術をもっていて、それが解決方法とやらになるというのならそうなのだと。
「界渡りの連中は本気で巻き込むようなことはしやしねぇからな。むしろ巻き込まれてんのは、王子くんなんでねぇの。セキヤを招くための、布石とか」
「それはまた可哀想だけど、ありそうだね」
この世界のあり方について、俺はまだよく解らない。
現実としてとらえることもできてないし、その前に手段を選んでそれを学んでしまっている。
「あれ?俺遅れた?」
そうこうしていると、ガルディオ先輩が俺たちが集まっている場所にきた。
今日は、何故かリオラ先輩に呼ばれて、リオラ先輩の部屋に兄弟全員集合となっていた。
「おー遅刻遅刻。ペナルティとして、セキヤの冒険に付き合ってやれ」
「え?どっかいくの、セキヤくん」
「え、いきませんよってか、リオラ先輩、決定しないで下さい」
リオラ先輩は、ふと、いい顔で笑った。
先輩がこんな顔をして笑うといいことは、何一つない。
す…と何かの紙を机の上にだした。
「あの国からの申し出を学園側が受けたらしくてね。僕らには断る権利があるんだけど、ガルディくんも気にしてたし、じゃあ、僕らにできる最大限をやってやろうじゃないかってことでね。今、集まってるのもそれがあって、なんだ」
ミハイル先輩がその紙切れについて説明してくれた。正直、俺は今でもそれに従いたくはない。
ガルディオ先輩は暫くの間その紙切れを眺めたあと、眉間に皺を寄せる。
「気にはしてますけど。別にうちのセキヤくん差し出すほどのことじゃないでしょ」
「お前の言うことをきくかわりに、セキヤ差し出せって話だもんな」
そう、紙にはそう書いてあった。
「えらっそうな文だが、俺はお前のやることがなかったことにならないように、やつらの鼻を折ってやるのに、全力を尽くしてやろう」
「ええ、僕も、それに賛成です。僕らの後輩を馬鹿にする連中はそれなりに苦労すればいいとは思ってるけど、馬鹿にされっぱなしってのも気に入らないので」
ミハイル先輩が意外と黒いことを言った。
確かにガルディオ先輩が馬鹿にされているのは腹が立つ。
この世界にきてから放置ぎみながら、けっこうお世話になってる先輩だし、たぶんこれからもお世話になるだろう…いい先輩なんだから。
「セキヤくん、他人事みたいな顔してるけど、これ、君のことも散々馬鹿にしてるんだよ」
「だよなぁ…なんの力にもならないけど、連れてってやらぁ的な…」
当事者となっている俺とガルディオ先輩より静かに先輩方は怒っていた。
ほんとうに、静かすぎるくらい静かに。
「じゃあ、リオラ先輩。『そちらに守っていただかなくて結構ですので、国の一部が消えていってる場所まで連れて行ってください』とオブラートに包みまくっていっそ嫌味になるくらいでお返事お願いします」
この三人の先輩方は怒ったら本当に怖い。
「俺、いきたくないんですけど」
「テイムするやつ、さがしてたじゃん。いい機会だよ」
いえ、ぜんぜんいくないです。
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