ちょっと遠くに市街地


「あ、セキヤくん、王子きたよ、王子」
放課後、補習といって山に行くガルディオ先輩とそれについていって、テイムする動物を探していた俺は、王子と呼ばれた人物に目を向けた。
王子と呼ばれて微妙な顔をしたそいつは、俺の後輩。
「王子、久しぶり」
「…王子はやめてください、先輩」
後輩は、この世界の王子様だった。とは、月並みな話。
王子様が異世界で育たねばならない理由としては、命を狙われたからとか、国の存亡をかけた云々かんぬんが。というものがある。
後輩の場合は、国の存亡をかけた云々かんぬんが…というものにあたるのだが、何せ俺は巻き込まれただけで関係なく、ただの高校生男児であった俺に何の協力ができるわけでない。大人しく、国というしがらみがないこの学校に来たわけだ。
「先輩、一匹テイムしたそうですね?」
「ああ、うん。そう。雪花」
兎のような生物が何もないところからピョーンと現れる。非戦闘型にしか見えない雪花はしっかり戦闘型の生き物だったりするが、それはあえて言わない。
困ったことにこの後輩は、どうも、心細いというか、未だ自分の境遇を理解したくないというか。
とにかくそういう理由で同じ世界にいた、しかも先輩後輩と呼び合うくらいの仲である俺に一緒にいて欲しい。という願望があるらしい。
俺がなんになるか説明受けてるときも、テイマーがどんなものだとか、テイムのしかたがどうのとかやっている間も、何度も足を運んではこういうのだ。
「じゃあ、一緒に来てください」
おとり巻きが怖いから、嫌です。といってやりたいが理由がそれだけでは断りとして弱い。
毎回その現場に漏れなく居合わせているガルディオ先輩は、俺が断りたがっていることを知っていて、俺の言葉に加勢はしてくれるけど、俺がはっきり言葉に出さない限りは加勢をしてくれない。
「いや、無理無理。ちっとも戦うとかできないから」
「そんなこと先輩はしなくていいんで!」
「いや、だって、危険に身をさらさなきゃならないとか怖くて」
「先輩にそんな思いはさせません!守りますから!」
「…いやぁ、何時聞いても、嫁に来ないかって言われてるみたい」
ガルディオ先輩がすっごい他人事でそう呟いた。
いや、ガルディオ先輩にとっては、他人事だけどね。
しかし、俺はあくまで後輩と一緒に行きたくないわけで。はっきりと無理だといっているのだから、ガルディオ先輩は加勢してくれた。
「ほら、王子くん。セキヤくんも男の子だから、守られて嬉しいわけじゃないのよ。まして、王子くんのことは後輩としか思ってないわけ。先輩としては、守られるより、むしろ庇護下においておきたい弟分?だいたいねーなにもしなくていいんで、ただ一緒にいるだけでいいんでってのは、土台無理というか。なんの権利があっていってるんだかしらないけど、一人でどうにかできるなら、最初からそれこそセキヤくんいらなくない?」
結構辛辣です、先輩。
「せ、せんぱいはいるだけで、僕の精神安定の役に…」
「それは責任重大だねー…でも、王子くんさ、結構平気ダヨネー?たまに会いにくるだけでいいんじゃない?ほら、だって、その大事な先輩であるセキヤくんを危険にさらして、どうかと思わない?ここにいる方が安全だよねぇ?セキヤくん無理っていってる事だしね。…あ、そうそう、セキヤくんを拉致しようものなら、俺は全力で追いかけるからね!俺がダメそうなら、ありとあらゆるツテを頼って、先輩を頼って、先輩の先輩も頼ってセキヤくん連れ戻すから」
この学園にいる限りは先輩後輩のつながりは非常に濃く、何処までも続いている感じがある。
この学園のシステムのせいなのだが、そのおかげで何の後ろ盾も、身内さえいなかった異世界の人間に強い縁ができる。
それこそ、先輩の先輩、後輩の後輩を辿っていくと綿々と続いていく一族みたいなものになっているのだ。
そんなわけで、ガルディオ先輩は、毎回、セキヤくんがダメだというのなら、ダメです。という態度を全面押し出しし、俺の意思が通らないというのなら、ありとあらゆる手段を使います。と脅しつける。
それが一国の王族に通じる、なんてのはいくらなんでも特殊なつながりすぎる。と思うのだが、通じてしまうのが俺の属する家族枠というか、一族枠というか。
類は友を呼ぶ。というように、俺の属するその枠の人間は異世界人が多いのだ。四人いたら三人が異世界人…つまるところ、学校にいるうちは三人の異世界人に一人、この世界の人間がいるという形をとっているらしい。
この異世界人というやつは、どの国にも縛られることがなく、どこかの国に根をつけることがあるとすれば、大体要職につくか、家庭をもつかのどちらか。
もちろん、自分の世界に帰ったというのもいる。
「で、どうするの、王子くん?」
「あ…う…くそッ…!」
国家間のことを思うのならば、大人しくするが吉。
後輩はいつも通り悪態をついて帰る。
必ず迎えに来ますからねッ!と捨て台詞をはいて。
「いや、こなくていいから」
と、いった俺の声がきこえたかどうか…。
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