見えないものも意外と近い


勝負に負けたってだけで俺のことをを何も知らないし、他人から提示された方法で契約をすることになったヒースには本当に悪いことしたなーと思ってる。
思ってるからこそ、俺は現状、どうしたらいいかわからない。
だって、俺が勝ったときだって、契約した時だってしぶしぶだったんだ。
それはもう、片時も目を離さず睨んでくれたんだ。
後輩の国で原因とされてるやつを連れてきましたよ、ほら、原因じゃなかったでしょ?ってヒースを見せにきたら、まさかの反応をしてくれたわけだよ。
「これが、原因…って、先輩、召喚されたのは…人間じゃないんですよ?」
「いや、人じゃないから」
「でも…」
先輩のことは信じたいんですけど…というふうに俺とヒースを交互に見る後輩。それは仕方ないことだ。俺だって、ヒースは人じゃないってのわかってるけど、大型召喚されたのがヒースだっていわれて『ん?』ってなったからな。
そこに嫌そうな顔をしたのは、ガルディオ先輩だとかレントとかいつものメンバーはなく、ヒースだった。
ガルディオ先輩は本当の原因をなんとかしに最初に消失したといわれた場所に向かっているし、それに付き合ってレントもそこに向かっている。
カイリ先輩はヒースに仕えていた人間を連れて来て、後輩についてきた国の要職の人と話している。
もちろん、要職の人はカイリ先輩をシーラーだからと嫌がったのだけれど、今は黙って話を聞いている。先輩は一体どんな魔法を使って黙らせたんだろなぁ…今度聞いてみよう。
「アルジに対しても俺に対しても失礼な奴だな」
目の前の状態から逃避しかかっていた俺を引き戻したのはヒースの一言だった。
「何が?先輩は疑ってないけど、あんたが脅してる可能性だって…そうか、あんたが先輩をおどして…!」
いや、本当にどこでそんな信頼を得たのだろうか。正直、怖い。
「…いや、疑われる程度には怪しい話だから俺は気にしてないんだけど、ヒースには悪かったと思うよ、色々」
俺のぽつっと呟いた一言には、ヒースも後輩も微妙な顔をした。
「何がどう悪かったと思ってるんですか、アルジ」
後輩のところまで帰ってくる中、俺とは何も話さなかったから、まさかこんな話し方をされるとは思っていなかった俺は、首をわずかにかしげたあと、ヒースの話し方は気のせいだと思って悪かったなと思ってることを列挙する。
「俺のこと何も知らないのに、自分の世界の方針からしたら嫌で仕方ないことを、他人の提案をのむ形でしてくれたこととか、怪我させたこととか、俺の実力の一つとはいえセッカに力を借りてることとか」
俺に話しかける際にこちらを振り向いていたヒースの眉間は、俺が言葉を重ねるたび険しい谷を作っていった。
怖い。ちょっと腰がひけそう。
「…アルジ、嫌だろうとなんだろうと、提案を飲んだのは私で、負けたのも私です。私の矜持を貶めるおつもりですか?」
潔いというか、プライドが高いというか。
俺が契約について悪く言うことは一切認めないし、契約については文句ひとつないと、ヒースはいった。
ちょっと、尊敬してしまった。
「あ、ええと…そんなつもりはもちろんないので…今度からいいません」
「…堂々としておいてください」
気のせいでなければ、まだ不機嫌なようではあるけれど、眉間の皺は少し除去できたように思う。
「…ちょっと、二人で世界をつくらないでください」
後輩が困ったようにまゆを下げるので、俺は、少し悩んで、ヒースに視線を合わせる。
「その姿以外の姿ってやつにはなれる?」
「先ほど戦った時のような姿ですか?」
「それ以外の姿とかはある?」
「ありますよ。それになれば、いいんですか?」
おそらくそれで問題無い。
俺は頷く。
けれど、やっぱ敬語使われてるよなぁ。ちょっと、ほかの人には尊大だから慣れない…。これは、後で直してもらおう。
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