「何が案の定なんですかってか、これ、すごいやばいんじゃ…」
俺も焦って思わずリオラ先輩の腕を掴んでしまったが、リオラ先輩はそれをそのままに、首をゆるく横に振った。
「そんなにやばくはないが…これをこのままにしておくと確実にやばくなるな」
そんな呑気な!腕を掴んだままリオラ先輩を揺すると再び、リオラ先輩がゆるく首をふった。
「アレは、情報処理がついていけてないだけだ。大型召喚なんていくら別の世界で天才といわれる神童ががんばったって、限界ってもんはあるもんだしな。それを助けるために俺がここに来たんだがなぁ」
天才?神童?首をかしげつつも、リオラ先輩がここに来た理由はガルディオ先輩を助けるためだということだけは理解した。
それだけ理解できていれば大半のことは大丈夫な気もした。
「ビビリはもう少し、この世界について考えたほうがいい。今、この世界に一番巻き込まれてるのはたぶんお前だからな」
俺の様子を理解してかリオラ先輩がゆっくりと片方の口角を上げたあと、俺の手を腕から外し、出しっぱなしになっていた槍を地面につく。
すると、地面に何か図形がぱっと浮かび上がった。
たぶん魔法陣とか言うものだと思う。
しばらくリオラ先輩が何事かを唱えると、ガルディオ先輩を中心に何か透明な膜…というよりもカプセルみたいなものに包まれた。
リオラ先輩はもともとこの世界に居た人間ではない。…つまり、異世界人だ。やっぱり他の人同様に異世界の魔法ってやつを持っている。
そうやって思ったら、俺って本当に何も持ってない。…今はそんなことはおいておく。
ガルディオ先輩はそのカプセルの中に入って、しばらくすると、唇を動かすのをやめ、遠くを見つめたあと、こちらに振り返る。
「……リオラ先輩、ありがとうございます」
「いや、遮断しただけだ。とにかく、作業を分担するためにミハイルにサモナー連れてくるように言っておいた」
「…本当に、ありがとうございます。意外と大きくて、この召喚門」
俺が不思議そうにガルディオ先輩とリオラ先輩を見ていたらしい。
リオラ先輩の言うこの世界に巻き込まれてるってのも気になっていたけれど、それ以上に、ガルディオ先輩の現状というか、今のこの状況がイマイチ読み込めていなかったから。
だから、ガルディオ先輩が青い顔で説明をしてくれた。
「前にちょっと説明したよね。この国がこんな状態になってるのは、大型の召喚に使う固定してある大型召喚ゲート…召喚門ともいうんだけど、ってそのままなんだけど…と、空間の歪みだとか捻れが問題って。おかげで世界がまじっちゃってこんな状態になってるんだけど、これ、意外と深刻じゃないんだよ」
「え?」
「ちゃっちな子供だまし。混じっちゃってるけど、本当に混じってるわけじゃないの。重なってるだけで、世界そのものはありのままで、半分実在して半分非在。おかげでうまく重なっちゃってる。この状態をつくるのはすごく簡単なんだけど、これをわけるのは難しい。分ける際くっついちゃった部分が崩壊しちゃったりするから…」
ガルディオ先輩のいうことを簡単にたとえると、赤と青のブロックでパーツをいくつか作る。そのパーツを重ねて家を作る。
作る際は重ねたりくっつけたりするだけ。でも、ばらす際はブロックの結合具合によって青が赤のブロックにくっついたままになってしまったり、赤が青のブロックについていったり、または、一つのパーツだけ外れてしまうかもしれない。
気にせず外すことは可能かもしれないけれど、青と赤のブロックという状態に戻すのはちょっと難しい。
特にバラバラに組み立たのなら。
それがブロックどころか世界だというのなら、なるほど、難しい…と、いうことなのだとは思うのだが、俺はやはり首をかしげる。
「うーん…本当に混じっちゃってたらね…そうだね、ジュースを混ぜるじゃない。元にはもどらないでしょ?じゃあ、空のコップに氷を重ねるでしょ?最初は問題なく一個ずつの氷に戻せる。けど、時間が経つと氷って重なった部分がとけて、凍らせなおすとそこが固まったりして取れなくなるでしょ?まぁ、とれないことはないけどね。今、そういう状態。俺が最新の注意を払って重なった部分を外してるんだけど、なんせ大きくて…外す先からちょっとずつ再び重なってってのを繰り返して、ちょっとおいつかないんだよねぇ」
先輩が俺より素晴らしい例え話をしてくれたんだが、それどころではない。
なんだそれ、無限ループじゃんか。
俺は、微妙な顔をせざるを得ない。
「まぁ、こっちのサモナーも返還はできるんだから、それを利用して俺のしたいことを説明して切り離しをうまくすればいいんだろうね。様子見がてら手をだしちゃってさー。ちょっと大変なことになっちゃったんだよねーあは」
「いや、アハじゃなくて」
「危うく廃人だったのにな。呑気な後輩だ」
そうそう、青い顔をしていうことじゃない。
そんな青い顔をしたガルディオ先輩のことを心配するかと思いきや、レントに現状をきいたり、何か説明したりしているカイリ先輩。この辺が二人は付き合ってないというクールな部分が見え隠れ。
こんなことを考え始めた俺はちょっと余裕が出来てきてるんだろうなぁ。
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