俺が色んな疑問をもったり、教えてもらったりしている間にもときは進む。
先に行ってもらっていたはずのヒースが俺たちのいる場所にたどり着き、目を丸くしている。
俺があとから来たはずなのにここにすぐ付いてしまっていることについて唖然としているようであったし、カプセルみたいなモノの中…結界の中に入っていることにも驚いているようであった。
「なぜ、これが…」
呟いたヒースに気がついて、リオラ先輩がそちらを向き、一度首をひねった。
「あれはどうしたんだ?」
「あ、あの人は俺と契約してもらった…」
「へぇえ?アレがびびりの下僕…ってことは、何か。原因にされてたのか。災難だな」
「いや、下僕じゃなくて」
先輩の感覚ではテイムは下僕にするということになっている…ということは薄々感づいていたことだったけれど、今日に限っていやにはっきり下僕というなぁ…。
「ああ…そうだった、テイムだったな。下僕とは違うんだっけ?…とりあえず、こっちに入ってもらおうかね」
先輩が何事かつぶやく。たぶん、これは呪文なのだろう。
そうすると、結界を眺めていたヒースが一つ頷いてこちらに入ってきた。
「……あんた、は…」
言いよどみ、リオラ先輩を見つめるヒースに、ヒースを眺めてしばらく何かを考えていたリオラ先輩が納得したように頷いた。
「なるほど、一大プロジェクトだな」
「先輩、何を納得してるんですか」
さすがに俺より解ってる風なガルディオ先輩も首をかしげる。そうだろそうだろ、俺もよくわからない。
「いや、そこの……たぶん、ヒストフレア…ヒースだろ、そこのやつは」
「……お知り合いで?」
と、間抜けな質問をする。
知り合いなら、こちらの世界での知り合いではないはずだ。
名前を言われて、ヒースは目を見開き、リオラ先輩の肩を掴んだ。
「あん…いや、あなたは!どうして、こんなところに…!」
「…どうしてと言われても…単純にこっちに連れて来られて、目的も果たさずにいるというか、果たす気もないというか…」
「…お知り合いで?」
俺が再び間抜けな質問をする。
先輩は、ニタァアといい笑顔を俺に向けてくれた。
「よかったなァ…これがお前に従ったってことは、朝から晩まで従順に、しかも下の世話までしてくれるぞ?」
「えーそうなの?って、下世話なこと言ってないで、説明してくれたらすごく親切なんだけど、センパーイ」
俺よりリオラ先輩と付き合いが長いガルディオ先輩が唇を突き出して文句を垂れる。
俺には恐ろしすぎてできない行為だ。
いや、確かに下の世話とか余計なお世話なこと言われた気がするけど。
「あー…これな、俺と、同じ世界からきたやつ」
「へぇー!そんな偶然って」
「偶然なわきゃねぇだろ、ビビリ。ガルディオ、あちゃあって顔してんな。お前だって巻き込まれまくってんだぞ?むしろ、使い捨てられようとしてんだから、自覚しな。たく…俺を含め、呑気だねぇ…正確に把握してそれでも無視決め込んでる悪い奴も若干一名いるみたいだけど…あー…ヒース。お前も本当、災難」
リオラ先輩は一度空を仰いで首を傾げた。
「時間がわからん」
「あ、それなら…」
俺は腕時計を懐から出す。
腕にしていても壊されそうでさぁ。大事にしてるわけよ。
「今はお昼チョイ過ぎくらいです」
そんで、こっちの時間と合わせてだいたいの時間はわかるようにしている。こっちには時計なんてものはないから、重宝してるんだよ。
よかった。この時計ネジ式で。
「ほー…便利なもんもってるなぁ…お昼チョイ過ぎなら…まだ時間はあるな。ミハイルが来るまでに軽く説明してやるか。…そっちのシーラー共もあつめて」
リオラ先輩から遠のいてすっかり安心していたリュスト先輩がびくりと身体を震わせた。そうだろうね、ここに来てすぐ、シーラーの後輩たちに混じったもんね、違和感なく。ほんと、リュスト先輩はリオラ先輩が怖いというか嫌いというか…。いや、俺もリオラ先輩は怖いですがね…。
「なんで…」
未だ納得のいかないヒースが頭を抱えている。
俺より訳わかんないよね。こんなところでずっと、移動もできないようになってた身としては頭を抱えるしかやることはないよね。
情報とかどうやって手に入れていいかわからない、僻地で。
リオラ先輩の言葉ではないけど、本当に災難。
俺たちを連れてくると言われている界渡りの能力者とかいうのも本当に残酷なことをしてくれる。
「俺もよくわからないけど…。大丈夫、なんとかなる」
無責任な言葉だけど、俺はそれだけは保証しようと思う。
何があっても、大丈夫にすることが俺とヒースの契約だと思ってるから。
なんでって、それは、そういうもんだから。
テイムの契約ってのは帰ることができるとこまできっちり契約だから。たとえ今は帰すことはできなくても。
ヒースが微妙な顔で俺を見てくるんだけど、ちょっとそのへんは勘弁してね。俺が頼りないのは自覚済みなんだ…。
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