見えても遠いものもある


「き、きみのそういう…そういう態度がッ、がま…がまん…ならないんだ…っ!」
ヒースが先に行ってしまったために空いてしまった俺の後ろに隠れながらいうことじゃないですよ。
とは言わないで、俺はリオラ先輩に向かって苦笑する。
「ミハイルとが良かったって、道中ブツクサ言いやがって」
「だ…きみ、きみには!ご、護衛なんてッ…護衛なんていらな、いらないじゃないかッ!」
まだ俺の後ろに隠れている、レントやカイリの先輩であるリュスト先輩がもっともなことをいう。そう、リオラ先輩には護衛などいらない。
むしろリュスト先輩のほうが外観的には必要だと思われる。
この二人の先輩は、俺が通っている学園の最高学年で、二人とも有名人だ。もちろんいい意味ではない。
不吉動物園を作るリオラ先輩は関わってはやばいとされる先輩だし、俺の後ろでビクブルしているリュスト先輩も、関わりたくない先輩だとされている。あの学園では二人とも伝説の先輩なのだ。
そんな二人が、なぜここにいるのか。
説明もされていないが、カイリ先輩が、さて、原因解明しにいってる二人のところに行くぞと俺と合流した時には既に先輩二人がついてきていた。
あえてカイリ先輩は俺に説明をせず、二人の存在を無視し、先へ進もうとするといういい度胸を持っていたため、二人の先輩方は俺に絡むという行為に出た。
正直、迷惑である。
「だ、だいたい…カイリく、くんは、どうして…む、無視する、の…!」
「……イトシイイトシイ、ガルディオが心配で」
すごく感情のこもらない声で適当に答えるカイリ先輩は、心配というわりにはマイペースに歩いており、急ぐつもりはさらさらない。
「う、うそだぁ…かい…カイリくん、移動の、し、シール、もってるじゃない…」
「そうでしたっけ?」
とぼけてはいるが、これはきっと持ってるんだろうなぁ。
いつもは不吉動物園を出しているが、流石に学園外では蛇の一匹も出していないリオラ先輩が、鼻で笑った。
「もってなくても、魔法で解決できるんだろ?」
リオラ先輩が右手を振る。
それだけで、槍がその手に握られ、カイリ先輩に突きつけられる。
…普段はこうやってすぐ武力に訴える人じゃないのだ。けれど、今日に限ってその手に握られた槍の切っ先はカイリ先輩からそらされることはない。
「うちの後輩だしにして楽してんじゃねぇよ。馬車馬のように働けよ、コウハイ」
「…まだ、お二方がこちらにきた理由を聞いてませんのでね。動きかねます」
「なるほど、イーィ性格のコウハイだなァ、リュスト。いいから、急ぎな。急ぎの用事だ」
そういうや否やリオラ先輩は俺の腕を掴んで引っ張る…って、すげーいたい!この人やっぱり護衛いらない!
「俺は、リオラ先輩割と好きですけどね」
そういうカイリ先輩は余裕綽々だ。
「か、カイリくん、お願い、お願いだから…っ、あの、あの悪魔、を、刺激しないで…!」
暗い顔して俺の後ろから、さっ…とカイリ先輩の後ろに移ったリュスト先輩が小さく嘆願した。
そのお願いを無視して、カイリ先輩はいった。
「行ってやろう。全員連れて、そこまで」
すごく偉そうな言葉!
と思ったら、何かに強引に引っ張られるような感覚が俺を襲った。
また先輩に引っ張られたのかと思いきや、俺の目の前には、目を丸くするレントと、こちらに見向きもせずブツブツ何事かつぶやいているガルディオ先輩がいた。
「な、ナニ?」
レントが驚いた。俺も驚きたかったが、急にレントとガルディオ先輩のいる場所に来てしまったことに驚く前に、ガルディオ先輩の状態に言葉をなくす。
ガルディオ先輩はただひたすらブツブツと焦点の定まらぬ目で何事かを呟いていたのだ。
「……」
余裕綽々だったカイリ先輩が険しい顔をした。
俺の隣でリオラ先輩がため息をついた。
「案の定だな」
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