「そういう会長は、誰が好きだというのです!」
俺は副会長に質問をされた。
俺は正直、それどころじゃなかった。
さっきから、目の前で、俺のものにひっついてひっついてひっついて、何様だと思っていたんだ。
あれにひっついていいのは、俺だけだろ!そう思っていたんだ。
俺はあれの首輪を後ろから引っ張る。
あれの喉が潰れて漏れ出た空気の音と、あれの迷惑そうな顔と、うめき声。
俺が手を離すと少し咳き込んで、後ろにいる俺に手を伸ばすあれは、毒だ。
誰の目から見ても、毒だ。
「…ナニ?」
「それを構うくらいなら、俺を構え」
「正直」
鼻で笑うアレは俺の首の後ろを四本の指でなで、親指で喉仏を撫でた。恐ろしく性的で、俺を見上げるその顔にある表情も毒、そのものだ。
「ど、どうしたんだ!マサキ!」
「んー…どうもしねぇけど…」
あの人の事情等お構いもしなさそうな転校生まで、アレの毒っけ…色気に当てられてどもっている。
「梓桜(あずさ)」
アレ…梓桜が笑った。目を細め、溢れるように、嘲るように、笑った。
それだけで、生徒会室が妙な雰囲気になるのがわかった。
梓桜に後ろからかがんで抱きつくと、梓桜は俺の耳に手を伸ばした。
「ここ…。ここの真ん中んとこ。刺してぇんだよなぁ…」
ニードル。
と、長財布を取り出す梓桜に、俺は鼻で笑う。
「今更、耳くらいで」
右耳は耳朶から軟骨まで、左耳は主に軟骨を中心に。鎖骨のあたり、臍、ふくらはぎ、舌。果ては乳首にまで。
やつは俺に好きにピアッシングをする。
唇と鼻と左の耳たぶはやる気がないというか、色々梓桜的に用途があるらしく、まだ穴はあいていない。
「じゃあ、ゲージも。広げていい?」
「それ、いてぇだろうが。嫌だ」
そのかわり、俺は、梓桜を好きに着飾り、首輪をつける権利を得ている。
日替わりで色んなデザインの、俺の名前が彫ってあるプレート付きの首輪をしている梓桜の身につけているアクセサリーもそうだし、ワイシャツの下に着たティーシャツも、髪の長さから色に至るまで俺の好みで、俺のチョイス。
おかげで、朝は早起きになった。
「広げていいなら、カラコン入れてもいい」
「マジで?」
カラコンを俺がつけようとすると、目をつかれそうで神経使うから嫌だといっていたから、それをおもうと。
しかし、それだけで、ゲージを広げる痛みに耐えていいものか。俺は、梓桜のシャツの襟首から手を差し入れながら、もう一つ付け足す。
「それに、リストバンド」
「暑いし、蒸れるし、てめぇの選ぶやつってあれだろ?革の」
「だって、おまえ、それが似合うじゃねぇか」
金属部分にはしつこく俺の名前を掘りたいといったら、梓桜が俺の顎に軽く噛み付いた。
「今日のブレスのプレートにもあるだろ。どんだけ、俺のこと好きなんだよ」
「タトゥーも恥ずかしげもなく俺の名前隠そうとするくらいには好きだな」
「…しかたねぇな…機嫌もいい…彼方(かなた)」
なんでもない風に名前を呼ばれ、俺は、目を細める。
名前で呼ばれるのは、実に半年ぶりだ。
「それに、一週間名前呼ぶのもつけてやるよ。そしたら、ゼロゲージまで、広げてもいいだろ?」
俺は、頷く。
「かなたって、会長の名前か!ていうか、あずさってなんだ!マサキだろ!」
「さぁ、なんだろうなぁ…あだ名、みたいなもんだ」
などと梓桜は答えるが、本名は、正木梓桜。
ちなみに、俺は、彼方宗正(かなたそうせい)。苗字ですら、半年ぶりに呼ぶ恋人のシャツの中にはいったドッグプレートを取り出して、首元に吸いつく。誰がいようと、お構いなしだ。
そういう権利を、色々なものの代わりに得ている。
梓桜は長財布の中を確認して、軽く首を振る。
「ニードル入ってなかったから、部屋で」
「部屋?エロいことしてそれどころじゃねぇじゃん」
「あー。興奮すると流血ひどいもんなぁ。なら、軟骨あけてからな。ゲージ広げるには、関係ねぇしな」
痛いのごまかせるし?
とあだっぽく笑う恋人は毒、どころか、入れ喰い状態だ。
あくまでタチを主張していたであろう生徒会の連中が、犯して!みたいな顔でこちらをみている。
誰が、貴様らなんぞを犯させるものか。
「なぁ…今から、部屋…」
「ん。そうだな」
俺に一度触るだけのキスをして、梓桜は俺と生徒会をあとにした。
部屋について、ベッドに押し倒された途端、俺は記憶がないのだが、梓桜はちゃっかり俺の身体にピアスを増やし、ゲージも広げてくれていた。
エロいことは一切されなかったのだけれど、気がついたら頭が痛くなるくらい寝てた。
そして、登校したら、梓桜にうっとりしてる連中が増えていた。
「梓桜ァ…」
俺を心配して、寝かせてくれたのは、感謝する。
だけど、そうされることによって梓桜がもてるのは、本当に嫌だ。
梓桜は俺だけのだ。
だいたい今日のコーディネイトも俺のはずだったのに。
ちくしょう、自分でやってきたな。色気がパネェよ…!