我慢比べは得意じゃねぇよ


人が大人しくしておけば、あの野郎ども、つけあがりやがって。
転校生が来てから、しばらく経ったあとの恋人の言葉だ。
「そんなにひでぇの?」
風紀委員長である双子の弟に聞くと、弟は一気に険しい顔になった。
「ひでぇなんてもんじゃねぇよ、こっちは生徒会より人手があるのに、こんなだぞ」
バタバタと忙しそうな風紀委員会室。
そこの風紀委員長が座っているデスクの後ろにある窓の下にしゃがみこんで、携帯をいじっていた俺は思わず笑ってしまった。
「自分に直接被害がなけりゃどうでもいいとかいってるからそうなる」
「つっても、これのせいで睡眠は妨害されてっから、そろそろ動くべきなんだろうが」
今のところ、転校生には目を付けられたものの、上手いこと逃げることが出来ている。
「かき回してやろうか」
「止めろ。お前がやったら洒落になんねぇよ」
携帯の画面を見つめながら、首を横に振る。
弟には見えていない。しかし、なんとなくわかったのだろう。
「マジ止めろ。自分の恋人が大事なら、つうか、俺も死にたくねぇから」
「恋人なぁ……あー、耳あけてぇ」
「……お前のせいで、あの野郎、ヤンキーもびっくりなピアスなんだが」
「カワイイだろ?」
「かわいかねぇよ。いかつい上に妙にチャラけてて、ただの迫力あるチンピラだ」
首を傾げてやる。
弟にはもちろん見えていない。
だが、ため息が聞こえてきた。
弟と俺は似ていない。
双子の癖に顔貌は似ていないが、お互いの考えていることは手に取るようにわかる。
「関係ねぇけど、鼎(かなえ)くんが洸(あきら)ちゃんに会いたいつってた」
「洸ちゃんは今海外旅行に行ってていねぇよ。いい加減、再婚諦めろっつっといてくれ」
俺は立ち上がり、弟の多々志橘花(ただしたちばな)に手を振った。
橘花は背を向けたままだったが、手を振り返してくれた。
「結局、かき回すのな……」
弟のため息が、去り際、もう一度聞こえた気がする。
当たり前だ。
ここしばらく、誰かのせいで恋人とまともに会ってねぇんだから。
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