おはようから濃厚で


 夜以外で布団の中に乱入されることはなんというのだろう。
 タスクは眠たい中、ぼんやりと腕の中に勝手に入ってきた男を、そのまま抱きしめた状態で思った。
 不法侵入者は顔を確認しなくてもタスクにはわかる。こんなことをするのも、仕方ないと最後には諦めるのもタスクには一人しかいない。
 宗崎吾雄である。
「しんしつの、カギは……」
「ぶち壊した」
 あまりにもアオが不法侵入を繰り返すため、タスク自らホームセンターに行き、鍵を新たにつけた。しかし、その鍵もアオを前にすると役に立たないらしい。タスクは、時間のあるときにプロの鍵師にでも来て貰うしかないとまたぼんやり思った。
「……ねむいから、ねていいか」
「俺が暇じゃねぇか」
「わがままいうな」
 アオはそうはいうものの大人しいものだ。じっと腕の中に納まって布団とタスクを堪能しているようでもある。
 アオは本気で暇だから相手をしろといっているわけではない。タスクがまた眠りにつくまで、構いたいだけなのだ。だが、眠たいだけのタスクにとっては迷惑極まりなかった。
「可愛くお願いしてもか?」
「かわいくねぇからおねがいするな」
「ひっでぇ」
 アオはタスクの身体に密着し、目を閉じる。布団の中に潜り込み、腕の中に納まった時点で、アオは予定を決めていたのである。タスクと二度寝をして、できたら起こされ、タスクに嫌な顔をされつつも構ってもらおうと、そう決めていた。
「とにかくねる」
「こんなに可愛く強請ってんのにか」
「かわいくねぇっつってんだろ……ねだってもねぇし」
 これだけ話しているのだから、そろそろタスクも目覚めてもいい頃だ。しかし、タスクは寝汚かった。あくまで布団の中から出ず、動かず、目をつむったまま、アオを抱えたまま、ふわふわとした音でアオに答えを返すばかりだ。
 アオはこの腕の中にある状態が、存外気に入っており、ただ笑う。
「わらうくらい、なら、ねろ」
「本当に、ひっでぇ」
 部屋に不法侵入して、布団の中にお邪魔し、さらには腕の中に無理矢理失礼したのである。アオにはこの待遇が悪いと思えない。むしろ大変優しいくらいの対応だと、アオは思う。
「じゃあ、寝るから、起きたら、おはようのちゅーでも」
「しねぇ」
「しねぇのかよ。じゃあ、ハグ」
「いましてる」
「してるのかよ。起きてねぇし、俺が滑り込んだんだから無効だろ」
「ねむい」
「考えるの放棄しやがったな」
 タスクが眠いながら答えてくれることが楽しくて仕方がないアオは、また笑った。アオが自らの背中に回しておいたタスクの手が、アオのシャツを握って引っ張る。タスクの抗議だ。もう口を開くのも億劫だといった態度である。
「まてまて、寝入りが一瞬じゃねぇか」
「なみのりだ」
「わからねぇでもねぇけど、言ってることがなんかおかしいっつうか、おい、牧瀬」
 ついにはタスクはアオのシャツを握ったまま寝息を立て始めてしまった。
 アオは少しだけ不満げに、うっすらとまぶたを開けた後、再びまぶたを閉じる。
「ぜってぇおはようのちゅーしてやろ」
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