「それで結局、何があって何が出来るか教えてくれないのか」
うまく会議に遅れてもいい口実が出来たと喜んでいるウルに、俺は振り返る。
「……ロノの身分や所属、あとは北方と南方の繋ぎだ。今のところ外では相変わらず事件が続いている以外変わりない」
セルディナが、俺が問いかけるとすぐに答えたウルを睨みつけた。セルディナだから答えなかったように思えたのだろう。だがウルはセルディナに嫌がらせをしたくて、答えなかったわけではない。誰にでも、そういう態度をとるのだ。俺にすんなり答えてくれたのは、ウルが俺とは付き合いが長いからである。そう、俺の性格を知っているからだ。
「では、あとは俺ともう一人から」
ウルの態度についてセルディナに一言も説明することなく、俺は続ける。ウルもセルディナも何か言ったところで態度を変えないだろう。悪化することはあるかも知れないが、仲良くする必要はないのだ。だから、せめてこの場を早く解散させることに努めた。
「もう一人はリッド・アルフェイド。中央騎士団団長の息子だ」
本来ならば、王都で起こった事件は中央騎士団の担当だ。事件が起こったとき、大祭でどこもかしこも賑わっていた。人が騒いでいるときは、その騒ぎに紛れ良からぬことを企む人間も少なくない。様々な事件や事故の処理で、中央は人手不足だった。
通常ならば、そういったとき西方や東方から人手を借りてくる。しかし、折悪しく東隣の国で内乱があり、東方は動くことが出来ない上に人手も不足していた。西方は中央と東方に人手を貸しており、すでに駐屯している人間以外貸せる人員がいない。
そうなると他より遠くにある北方より南方に頼る他なかった。もとよりレスターニャの騎士団は年中人手不足だ。南方も学園に人を寄越す余裕はない。そこで協力者という役割が、学園にいる騎士団長の息子たちに回ってきたのだ。
「リッドは俺の監視と中央の繋ぎ、俺に呪いが発動して動けない場合、それの出現場所を辿る役目も担っている。中央は報告だけ聞くそうだ」
「やだねぇ、これだから中央は好かない」
俺は騎士団の体制について知っているが、思うことはあまりない。騎士団に残るつもりが最初から微塵もなかったので、心動くことがなかったのだ。
騎士団に残ってしまった今でも、面倒だと思っても王子さえ護れるならそれでいい。
「近衛は動かない?」
大まかに言えば近衛に属しているセルディナも、レスターニャの騎士団に思うことがあるのかもしれない。不機嫌そうに黙り込んでいたが、口を開いた。
「王子に近すぎる。王子は勘も鋭いし頭もまわる。しかも退屈している。俺など切って捨てるくらい簡単だろうが、事件に面白半分で首を突っ込まれたくはない」
騎士団のことはどうでもよくても、王子が首を突っ込んでくることだけは避けたい。
たとえ誰より優秀で俺に護られずとも無事でいられて、一人で事件を解決できたとしても、万一を思うとぞっとする。俺はまだ、何もできていないし、何も言えていない。
「とにかくリッドからは以上だが、リッドは悪くないということは留意してくれ」
中央への不満が欠席しているリッドに向くのはあまりにも不憫だ。セルディナがウルを嫌がるのはウル本人が必要とあらばどうにかできる。しかし、ここにいないリッドが何かしたわけでもないことで嫌がられるのは可哀想でしかない。欠席しているのはリッドがお人好しなだけであって、他の騎士団を蔑ろにしているわけではないのだ。
二人は何も言わなかったが、それでもいい顔をしなかった。リッドには後で苦労をかけるかもしれない。
「俺からは、王子に気に入られたのは困っているところだが、それ以外は大丈夫だ。フォー様に執着している生徒が気になっているが」
フォー様の名前が出たからだろうか。セルディナの反応が早かった。
「ああ、あの癒されない小動物か。消しておこうか」
「こら待て過激派」
さすがのウルでも急に一人の人を消すと言われてセルディナを無視するようなことは出来なかったらしい。頷きかけて首を横に振った。
「呪いの反応はないんだが」
「あったことにして消す。あの小動物、フォー様に表を堂々と歩かせないとはどういう了見だ。許さん」
フォー様の扱いが本人の前では適当であるにも関わらず、フォー様のいない場所では過保護である。数日しか一緒に行動していないが、俺でさえ病んでいると感じることがあった。
「だから待て、過激派。フォー様ってことは、また行き過ぎた生徒だろうが。あれはフォー様の自業自得というやつで」
「何を言っているかわからない。ラグ様とてある意味自業自得。フォー様に適応されない理由にならない」
確かに、王子が軽率に俺を助けたがために今回のことはある。それを思うと俺としては本当に複雑であるのだが、自業自得と言えなくない。
「ロノはそこで悩むな。命助かったやったぁくらいに思っとけ。とにかく、消すな。いいな、消すな」
「お前などの言うことを聞いてやるいわれはない」
俺はなんと言っていいか解らなかったが、この先が前途多難であることだけは理解できた。