真夜中、どうしようもなく会いたくなったらどうすればいいのかよくわからない。
騒がしい街の一角、眠気も知らないような幼なじみの傍ら、ちらりと見た時計の針は2と11をさしていた。
会うにも電話をするにも、遅い時間。
明日は休みだと言っていたが、だからといって夜更かしをするだろうか。
メールなら眠りを妨げないだろうか。
先程から携帯の画面に指をのせてメール画面を開いては閉じてを繰り返す彼に、彼の幼なじみはため息をついた。
「…もういっそのこと携帯から手ぇ離せ」
「嫌や」
くるくると画面の上で指を回す。
表示したキーボードをでたらめに叩いた結果を、画面は表示していた。
『あいたい』なんて、たったの四文字。
句読点をいれても、たったの五文字。
伝えないかぎり、今の状態で気付いてもらうことは不可能。
たとえ、メールを送ったとしても、受け取る相手が寝ているのならば、会うことはできない。
もし、起きていて、それを見たとしても、無視をすることも不可能ではない。
そうなると、この会いたい気持ちと、それを無視されたことと、二つの寂しさを持て余すに決まっているのだ。
「命みじかし恋せよ少年か?」
「それ、乙女やから」
ゴンドラにのったこともない。と、彼は幼なじみより長いため息をついた。
恋なんて。
楽しいこともあるが、反面つらいこともあって。
しかも、少数派の恋ならば。
会いたいというだけで、責められている気すらする。
救われるのは両想いだということ。報われないのは気持ちの重みが違う気がしてならないこと。
センチメンタルが入っている自分自身にひいて、携帯画面を見る。
意味をなさない文字は増えるばかりだ。
午前三時。
昔馴染みと集まって、食って飲んで、とりあえず中心から離れてスツールに座る。
ジーンズのポケットで、携帯が存在を主張する。
いかにも面倒だといった様子で取り出した携帯をスライドさせる。
携帯を震わせたのは、恋人のメールだった。
タイトルはなし。
本文もなし。
明らかな空メール。
彼はおもむろに短縮ボタンを押す。
「……死にてぇの?」
午前三時。
昔馴染みと集まったのは六時。
ノンストップで飲み続け、絡まれ続け、ようやく静かになったところに、不可解なメールが届いた。
『………………死にそうなん』
しばらくの沈黙、後、返ってきた恋人の言葉。
『ウサギやから、ほら、かわいない?』
ごまかすみたいに。
「まったく可愛くねぇな」
『ヒサヤさん、ビー、クール』
何となくヒサヤは、恋人の状態を思う。
「素直に言えねぇのは、可愛くねぇ」
本当のところ、そうやって素直に言えない所も可愛く思っている。
『……ッ』
けれどそれ以上に、電話口で息を詰めて、恐らくどうしていいか解らない顔をしているだろう恋人の方が、
ヒサヤは可愛いと思ってしまう。
『…そ…の…、あー……その』
そして、ヒサヤは、何とか言おうとしている恋人を待ちはしない。
「言えねぇなら、いい。切るぞ」
『ヒ…』
恋人が名前を呼ぶ前に、容赦なく電話を切る。
これで電話がかかってきたり、メールを送ったり。
そういうことが出来ない恋人を、ただ可愛く思う。
ヒサヤは少しどころか、随分酷い男だった。