弁当か…と昼休みを引きずり帰ってくると、そこにはやたらマークされたエロ本があった。
そのエロ本は特集号で、その中でも特にマニアックなページが折られていた。
何故知っているかというと、俺がそれを見たからだ。
俺のものではないし、もしかしなくても鬼怒川の持ち物ではないだろうエロ本に、その気になることもなく、興味がわかないファッション雑誌を読むようにエロ本を読んでいた俺に、鬼怒川が声をかけた。
飯が、うまかったと。
他人の趣味であるエロ本に興味は薄い。
そんなことより、作った飯がうまかったと言ってもらえたことが嬉しかった。
表情には一切でなかったが、そう、嬉しかった。
いうことはないだろうことを言ってしまったくらい、嬉しかった。
茶化すようにエロ本の話をして、部屋に入ったあと、俺は、ほとんど何も入っていないカバンをベッドに放り投げる。
今夜はさすがに飯を作っていない。
内鍵をつけてから、転校生はこの部屋に入ることはなくなった。
できるだけ友人に付き合って騒がしい転校生と一緒にいるが、今現在の少しふわふわした落ち着かないと言っていい気持ちを墜落させるのは忍びない。
上機嫌なままで、俺は外出をしようと思った。
学内では一匹狼などという恥ずかしい扱いをされている俺も、外に出ればつるんで遊ぶ友人くらいそこそこいる。
そいつらと、意味もなく騒いでさらに気分良くなろう。
と、思ったのがいけなかったのだろうか。
いつもの友人といつものように遊んで、それだけだったのに。
「あいつ…!最近この辺で騒いでやがる族つぶし…!」
友人たちは苦い思いがあったのか。なんとかソレから距離をとろうとしていた。
残念なことにソレのターゲットは俺たちだった。
ソレは、正に、騒いでいると言っていい。
見たこともない明るい…絵に書いたような薄いピンクの髪に、学校で見かけるような目がでかくてぱっちり二重の…チビ。
見たことはなくとも、声はきき間違えない。
あぁ、似ているなんてもんじゃない。そのものだ。
言ってることも、叫び方も、怒鳴り方も。
明らかに変装だと思っていたが、まさか正体がこれだとは思っていなかった。
今は関わりたい気分ではない。
敏感に隠していることに気が付くくせに、今の俺が学校にいる俺と同一人物だとは思っていないようだ。
外に出るときの俺は、寮にいるときの適当さがないせいか。それとも今帽子をかぶっているからか。別人のように、見えるらしい。
ソレは逃げる俺たちを追ってくる。逃げれば追ってくる執念は、学校にいるときと同じだ。
そう、ソレは転校生の佐伯だった。
友人いわく殴ればそれはそれでしつこいし、否定してもしつこいしで、なんとか逃げるしかないらしい。
気のいい友人たちは、殴っても蹴っても、限度を守るし、喧嘩で殴り合うことを好まない。
とりあえず俺がボコそうか?というと、おまえを犯罪者にはしたくないという。
ひどい言われようだ。
とにかく逃げるが勝ちと、ばらばらに逃げたが、真っすぐアレは俺を追ってくる。
ばれていないのに嗅覚はある意味鋭いのだろうか。 走って走って、走って…。
アレは異常な体力を持っているんじゃないだろうか。そろそろ俺もギブアップしたい。と思いながら路地の角を曲がる。
すると急に何かにひっぱられ、俺はバランスを崩した。
何が起こっているのか、酸素不足な俺には理解できない。
理解できないまま、さらに酸素を奪われる。
息を吸うためにあけた口は、空気ではなく他の唇を与えられ、何かを考える前に捕らえる、舌。
キスされているのか。
しかもディープな。
気持ちいいなとそのまま調子づいて、集中しようとしたところで唇が離れる。
気に入らない。
されるがままになって、だらりと下げていた腕を上げ、相手の頭を手で捕らえる。
唇を追って再び重ねて、今度は俺の代わりに驚いたキスの相手に、噛み付く。
舌を絡めて噛み付いて。
自棄なのか、諦めたのかのってくれた相手に俺の機嫌は再浮上。
途中で俺を追ってきた転校生が何か叫んで逃げていったが知ったことではない。
気持ちがいい。
離れるのが、惜しい。
けれどそろそろ酸素もほしい。
ようやく唇を離しはしたものの、未練がましく舌をのばして口端を舐めた。
気持ちの良さからか、走ったからなのか、あるいは両方なのか。息を荒げて、そいつに抱きつくようにもたれかかる。
顔はあまり見なかった。
ただでさえこの辺りは薄暗いし、見る前にキスされた。
そして今は酸素がほしい。
柔らかさがなければ、胸もない。鎖骨に頭を置いているし、抱き心地も良くない。しかし、心臓の音だけがいやに心地よい。
あぁ、これ、男だな。
ようやく酸素が足りてきた俺が思ったことに追い打ちをかけるようにそいつは言った。
「……情熱的だなァ?古城」
ああ、よく知っている声だ。
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