弁当騒ぎがあったその日の晩。
俺が帰ってくる時間に、古城はめずらしく共同スペースのソファに座っていた。
二人座りのソファの肘置きに長い足を組んでのせ、もう片方の肘置きに頭を乗せて、雑誌を読んでいた。
行儀わりぃなとか思う前に、長ぇなぁと思った俺は、古城の持っていた雑誌に目を向ける。
エロ本だった。
…俺も同じやつをとある副委員長に押しつけられ持っている。とは言い辛く、声もかけ辛かった。
共同スペースでエロ本を読むなとは言う気にはなれず、ふと、手に持った空の弁当箱を思い出し、漸く声をかけた。
「古城」
エロ本を真剣に見ていたわけではないのだろう。
古城は、呼び掛けると、エロ本を畳んで、上半身を起こし、俺を見上げた。
「昨日の飯、美味かった」
それをいった瞬間、古城がわずかに目を見開いた。
「……鬼怒川、」
古城も何か言おうとしているようだが、まとまらないらしく、口を僅かに開いた
まま、言葉にできずにいた。
急ぐ用があるわけでもない。
誰が見ても睨まれているというだろう、古城の視線をそのまま受けて、俺は待った。
「……飯、迷惑じゃねぇえ?」
しばらくして、それだけポツリと落とした古城に、俺は笑った。
「今更きくのかよ?迷惑なら食わねぇから」
俺の性格を把握していない古城は首を傾げた。
「恋人いんじゃねぇの?」
「あ?……お前もあのくだんねぇ噂信じてんのか?」
古城の視線が僅かに下がる。
「弁当」
「これは、昨日のお前が作った晩飯つめただけ」
空の弁当箱をふると、面食らった顔をしたあと、古城が笑う。
口元を押さえ控えめに笑った古城。
始めてみる姿を眺めつつ、俺はあることに気が付いた。
「じゃあ、遠慮なく作るわ」
ソファーから離れていく古城はやけに優雅な足取りで、エロ本を残して自室に向かう。
「あと、…いいご趣味だな」
自室に消えた古城を目で追わず、残されたエロ本を見つめ、俺は眉間に皺を寄せる。
やたらとページが折られ、マークされたその本は、どこぞの副委員長の私物であり、押しつけられたそれだった。
思わず舌打ちをした。
昨晩、ソファーに放り投げたままだった。