それから何度か高雅院と接触をはかり、なんだかんだと思い余って、彼は一度告白をしてしまった。
その結果はいいものではなかった。しかし、彼は諦めないと決めた。高雅院にもそう告げた。
だから、こうして、高雅院と繁華街を歩くのは実のところ少し、緊張することだった。
しかし、少しの緊張は、高雅院の魅力の前ではあまり意味を成さない。
高雅院の魅力にフラフラと寄ってくる人間や、視線を彼は威嚇することや、彼に向かせ、それとなくいなすことで緊張どころではないからだ。
彼自身、穴が開くほど見られているし、視線を集め人を集めているのだが、この際そんなものは彼には関係ない。
今は、高雅院がトンビに盗られないということが大事なのだ。
「あ、トノ会長じゃん!かーいちょーお〜」
間延びする語尾と口調、声から、会計の古賀藍次(こがあいじ)だと判断した彼は、声のするほうを振り返った。
「ああ。高雅院会長もご一緒でしたか」
その近くにいた副会長の外村慶治(とのむらけいじ)が目ざとく高雅院を見つけたことに、彼は眉間に皺を寄せた。
無用なからかいを後でうけることになると思ったからだ。
「「おでぇと?」」
此処にきて書記の双子、真田灯火と燈火(さなだとうか)まで一緒だった。
休日は生徒会長をハブにして仲良しこよし生徒会メンバーでお出掛けか。と思ったら、何かいい気分はしないが、彼も高雅院と一緒であるため特に気には留めなかった。
しかし、この四人がいるということは、最近おなじみになった彼を疲れさせる原因が、何処かにいるかもしれない。そう思い彼はあたりを緩やかに見渡した。
見渡すまでもなく、それは一人の人間をずるずるとひっぱって連れまわして、目に付いたであろうソフトクリームを片手に歩いている。
すでに暑さで溶け出したソフトクリームがドロドロであるが気にする様子はない。
「あのソフトクリームは落ちるな」
そんなことをぽつりと呟いた高雅院の声が聞こえるか否かというときに、ソフトクリームは見事に地面に落ちた。
誰もソフトクリームまみれにならなくてよかったなと、半ば現実逃避をし始めた彼はソフトクリームばかりに気をとられていた。
そして、ソフトクリームが落ちたことで上機嫌から悲劇に転落した人間がいた。
そう、ソフトクリームを落とした張本人だ。
わぁわぁと喚き、泣き始めた様子はただの子供である。
ソフトクリームくらいで泣くなといってしかりつけるのも面倒で、今度はソフトクリームがもったいないなと遠くから見ていた彼は気がつかなかった。
既にこちらにやってきて、ソフトクリームが地面と仲良くなってしまったことをこの世の終わりみたいに嘆く人間が近くにいたことなど。
まわりは新しいものをかってやるだの違うもっといいものをかってやるだのといって、ソレを慰めるのだが、一向に泣き止まず、ソフトクリームがどうの、それじゃねえんだがどうのと騒ぎ立てる。
「…さっきのソフトクリームは残念だったな。一口しか食べてなかったんだよな。落ちてしまって、それは悲しかったな。アレがよかったんだよな?買ってもらえて嬉しかったんだよな?でも、落ちてしまったんだ。買ってくれたのは?」
ゆっくりで柔らかい口調だったが、何かをいうすきを与えず、ソレの近くまでいって、わざわざ目線を合わせて言った高雅院雅に、彼はいつだったかのように呆然とたたずんだ。いつの間にあんなところに。
「そうか。それなら、外村にごめんなさいだろ?」
優しいが有無をいわさない何かを高雅院に感じたのか、ソレはしおらしくごめんなさいといった。
「ん。それで、ソフトクリームはまだ欲しいのか?」
頭…というよりもヅラをかき回しながらそう言った高雅院は何か手馴れていた。
「急がなくていい。ゆっくり悩んで答えてくれ」
ソレが即決もしないで、声も荒げず喉が渇いたといったときに、高雅院は迷わず近くの自販機に行き、これもまた迷わず冷たいミルクティーを買ってきた。
希望を伝えていなかったにも関わらず、希望のものを持ってきた高雅院に驚いて何か言おうとしたソレよりはやく、高雅院がこういった。
「今日は天気もいい。急ぎでもないんだろう。外村たちとゆっくりすればいい。急ぐ必要はないんだ。それじゃあ、また機会があったらな」
彼のもとに戻ってきた高雅院は、急ぐでもなくゆっくりと彼を促して、その場を離れた。
彼は、高雅院がうまくその場を落ち着かせてしまったことにも驚いたが、その際に呟いた高雅院の言葉にも驚いた。
「あー…いらねぇ世話焼いた…」