「高雅院、あれは一体なんだったんだ」
「……子供はとりあえず、自分の言い分を聞いて、理解してもらいたいんだ。頭ごなしに怒鳴ってもしかっても泣き喚くだけ。意固地になってる場合は、他のものも目に入らないから、代わりをだされたってソレが同じものであっても嫌がる。ソレがいいし、ソレじゃないといけなかったんだから。ちゃんと自分が選んだんだから、それがいい同じは同じじゃない。だから、泣いた理由を聞く、尋ねる。でも、親身になるつもりはなかったから、聞く姿勢が出来ているうちに一気に押した」
「アレは高校生だが」
「子供じゃないんだからって叱ったところで、子供は理解しないし、本当のところ子供ではないんだから子ども扱いされたことに矜持を傷つけられる。それに子供はだいたいが背伸びをしたがって子供扱いされることに怒るもんだ」
「…じゃあ、何故、欲しいものが解った?」
「自販機のしかもミルクティーを間違いなくみていた。解りやすいことこの上ない」
「なるほど」
効力はどれほどあるかわからなかったが、高雅院がそうしたから穏やかにあの場を去ることが出来た。
もし、なかったことにして立ち去ろうとしたら、無駄に勘のいいアレが目ざとく彼らをみつけて、無視はいけないと怒鳴り散らしていることだったろう。
「自分の言い分を理解してもらえばあとは、移り気な子供で解りやすかったから、良かったが…あー…本当にいらない世話を焼いた…」
見事な手腕だ。と褒めたい気分と、どうして高雅院雅の魅力に気がつくようなことをしてくれたんだという気持ちと、やはり高雅院雅はすごいという気持ちが複雑に混じって、微妙な気分な彼は相槌も打てないで、高雅院とともにランチで賑わうカフェで項垂れた。
何処にいても何をしていても楽しいはずだったデートが、何故こうして二人で項垂れるようなことになっているのか解らなかったが、ふと、おかしくなって、彼は笑った。
「何してるんだ、俺らは」
カフェの二人席でとりあえず広げたメニューを前に、同じように向かい合って項垂れる男二人。
おかしくて仕方なかった。
「……」
ひたすら笑っている彼を見て、高雅院は何か満足げな顔をした。
「そんな笑い方もするのか」
優しすぎるその声に、顔を上げて、彼は少し、後悔した。
あまりにも、柔らかい表情がそこにあり、一気に、顔を赤くしてしまったからだ。
しまったと思った時には、目の前の男が顔をくしゃくしゃにして笑って、彼が笑いすぎて落ちてしまった髪を優しく攫うから。
俯くことも出来ず、彼はまた、この後どう行動したか記憶できなかった。
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