平凡の定義。


特出すべきところがないごく普通の人が実は、爪を隠してるだけ。
なんてことはよくあること…なのかもしれない。
筧史朗(かけいしろう)。
中肉中背、成績はそこそこ。好きな科目は数学、情報、体育、でも運動神経もそこそこ。どちらかというと理数系。
人よりたくさん飯を食うけど一定より体重は増えないどころか最近は減少気味。
栄養があんまりとどまってない気がする、そういう体質。
少し黒目がちってこと以外は容姿も至って普通。
性格も大らかで人当たりも悪くない…って自分でいうのは少しどうかと思うけれど。
ちょっとビビリだけど、のんびりマイペースなところがあって、ゆったりと話す。
それを癒されると人はいう。
そんな俺ですが。
先にいったとおり、情報が好きで、コレが一番得意。
それで頭が抜きんでるほどには、得意で、微妙な程度に見せるくらいの腕がある。
それに目をつけたのが、先代の情報部部長。
パソ部だのパソヲタ部だのと呼ばれている情報部。
パソコンを触れるという理由だけで入ったそのクラブは、あまり人様に大っぴらにできない情報を扱っていた。
そして俺は何故か先代の部長に見初められ、今現在、部長をしている。
だから、転校生がどういった奴かも、今、俺が置かれている状況という奴も知っている。
知っているのだが、転校生は行動力がありすぎた。
俺がどうこうする前に振り回される。
その上ちょっとビビリな俺は、情報は持っていても、リアルで睨まれるたびビクビクしてしまうわけで。
そうなると生徒会長、補佐のぞく生徒会メンバーにさすように睨まれて…元同室者の怖い顔の友人に助けられて軽減はするもののやっぱり疲れるというか凹むというか。とにかく気落ちするし、弱る。
元同室の現同室者である風紀委員長が見兼ねて風紀室に保護してくれなければ、俺の体重は風前の灯だったに違いない。
元同室者も風紀委員長も怖い顔はしていても、睨んできたり悪態ついたり、八つ当たりなんかはしない。最初こそびびったけど、今は信頼仕切っている。
俺の信頼は安いと言いながら、悪い気はしないという風紀委員長はただのオトコマエに違いない。
そうやってかくまわれている間に、風紀委員室によく来る奴らとは知り合いになったりするものだ。
だいたいが風紀委員。たまに不良のやつら。
不良のやつらは仲間意識がつよい。
特にコレといって目立つところのない俺が風紀委員室にいるのは異質だけれども、学園では有名な転校生に絡まれるジミーくんは、よく知られているらしくて、此処にいるのを見るたびに同情の眼差しで見つめられる。
食物を与えられては、やさしい目で見られる。
風紀委員室仲間だと思われている節がある。
そんな、地味で普通に見えるだけで、実は学園1の有名人に振り回され、一匹狼といわれる友人を持ち、さらに風紀委員長とも浅からぬ縁があり、不良クラスの連中とも仲が良く、学園の微妙な情報を知っている俺は…至って普通ではない高校生だ。
平凡なのは外見、一部のぞく成績のみだ。
そんな俺は、先日、初めて、男に、恋をした。
そう、まさかの男。
学園の不良の筆頭だと言われる人物だ。
憂愁の君だとか恥ずかしげな二つ名で呼ばれる、苦労性でちょっと世話好きな、オトコマエ。
何処に惚れたのかと言われれば簡単で、そう、至って単純で。
顔、だ。
憂鬱な表情が似合うその顔は、整っていて、そのくせ笑うと幼く感じさせる。
男臭い唇に、眉間に作ったしわすら演出のようだ。 男でしかない、その顔が羨ましいと思うのは至って普通で、それと同時にきゅん…としてしまったのを許してほしい。
昼飯をもさもさと食っていた俺と、風紀委員室にいた不良。
身柄を引き取りにくる番長なんて珍しいけど、ここではよくあることだ。
身柄を引き取られ俺のミルクフランスを奪おうとした奴に拳骨を落としたあと、俺にミルクフランスをすまなさそうにかえしてくれた。俺も別に気にしてないと、筆頭に似合いそうな焼そばパンをそっと渡し、ついでに、チョココルネを拳骨おとされたやつに投げるように渡すと、筆頭は楽しそうに笑った。
前述したように、少し幼い笑顔。
ギャップ。
そう、人はそれに、きゅんとする。
それから、声を聞くたび見かけるたび気になるのは恋じゃないといえるだろうか。
笑顔に惚れたというよりは、表情が変わる瞬間に惚れた俺は質が悪い。
沈もうが怒ろうが、きゅんとなってしまうのだ。
だが、筆頭こと閂愁二こと憂愁の君、通称ユウシュウ、略してユウだのシュウだの呼ばれている人物は、そんなに喜怒哀楽が激しくない。
大抵、憂愁の名の通り、憂鬱そうな顔をしているのだ。
だが、憂鬱ならまだましで、最近は疲れた顔しか見せない。
おそらく、学園1の有名人で、俺が風紀に保護される理由となっている人物にやたら絡まれているせいだろう。
あれは、疲れるしストレスがたまる。
「筧…おまえ、わかりやすいのな」
「…やっぱわかる?」
一匹狼と称される不良な友人と、そこはかとなく並び立ち、学園1有名な転校生が、学園1の不良なんていわれている人に絡んでいるのを見ながら、俺は笑う。
ふと、ユウシュウな人と目が合った。
一瞬、目がやわらかい色を孕んだあとゆっくり視線をずらされた。
あまり見つめ合うと転校生にばれて面倒だからだ。
「この間とか、余ってるおにぎりくれたし」
「餌付けされるな。…俺が言えたギリじゃねぇけど」
そう思えば、友人は風紀委員長の胃袋を支配しているらしい。
友人は料理上手だが、本人が柄じゃないと嫌がるから何もいってこなかったけれど、今度何か作ってもらおう。
だって美味そうだ。
「ちょっとはにかんで差し出されたんだぞ?男のはにかみとかキモいと思ってたけど、いけると思った。おにぎりも嬉しいけど、それ以上にきゅんときた。両想いかとおもって心を落ち着けるのに苦労した」
「妄想だろっていえねぇところがつれぇな。あと変態だなっといって差し障りねぇな」
それは自覚済みだ。
転校生がきた瞬間に隠すことなく嫌そうな顔にかわったところにきゅんとしたし、俺を見て一瞬柔らかい表情見せるとこなんて可愛いといっていい。
「どうしたら、手に入るかな」
全部がほしいとはまだ言わない。
とりあえず、疲れた顔を見るのはもう飽きた。
「この前みたいにアイツ停学になんないかなー」
「結構ひでぇよな、おまえ…」
当たり前だ。一番迷惑してるの俺なんだから。
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