憂愁と名誉会長。


屋上やヤンキーどもが夢の中

「…ちょっと落ち着けよ」

第二棟屋上、さらにその給水塔の物陰でなんとか隣の校舎の屋上を盗み見ながら、彼らは素早く手を動かす。
『隊長、由々しき事態です!名誉会長が、溜息をつかれています!』
『いつものことじゃぁあないか』
その手の動きを見て、隊長も手を動かしながら、口をパクパクと動かす。
『それが、今回はちょっと、一味違っていまして…名誉会長が、怒ってるんです…』
隊長は、その手の動きをみて、まさか。と目を見開く。
名誉会長は滅多に怒ることがない。それどころか、溜息をつかれてもニヤニヤと笑っていることの方が多い。
そんな名誉会長が怒っているとなると、いつも憂愁の君を癒すことに血道を上げている隊長とて驚かざるを得ない。
『なん…だと…!?』
彼らは素早く手を動かす。
その傍ら、記録係の一人がカタカタと記憶係なりに楽しく訳してパソコンで入力をしては、エンターを押す。
その素早さ、リアルタイム。
『何が、何が原因か、わかるかね…?』
『はい!例の女房です!』
その手の動きを見て、記憶係がパソコンのキーボードを叩いた瞬間、草が生えた。
画面一面の草どころか、ネコまで降臨した。
『くそ…ッ。あの野郎、何処まで我々を邪魔すれば、気が済むんだ…』
『一度、懲らしめてやるべきなのです』
『そうだ…あの転校生がどうにかなってしまえば、憂愁の君とて、あの進展のない状態から脱するに決まっているのだ…!』
パソコンの画面にはある顔文字が思い切り手を振って応援し始めていた。
『では、これから、第38回ゆうしゅうよりの逃走会議をはじめる!』
その日のリアルタイムチャットは盛り上がった。

だが、彼らはわかっていなかった。
閂愁二と筧史朗が進展しないのは本人たちの問題であって、転校生はまったく関係ないということに…

これは閂愁二と時田枢と筧史朗の目の前で転校生が落とし穴にはまる一週間前の話。
next/ 憂愁top