とある空き教室。
彼らは集合した。
「久々にリアルで集会ですねー隊長!」
「そうだな、副隊長。今回は名誉隊長は来られないそうだよ」
「あ、聞きました。デートに行きたいからだとか」
「ふむ、春だな。…しかし、春と言えば、憂愁の君だ」
書記がカタカタとパソコンで彼らの会話を打っていく。
それは素晴らしいスピードでリアルタイムといって相違ないくらいだった。
「せっかく癒しの筧くんにあったというのに、全く恋愛に発展していないではないか」
「そうなのですよーあとは自然に任せておけばこう…うまくいくかなぁ…と思ったんですけど、愛でる対象化しちゃいまして」
憂愁の君は大いに癒されているのだが、憂愁の恋人をつくるということに燃えている彼らには、今やそこは条件の一つでしかない。
「押しかけ女房だけでは恋の障害というにはいささか弱いようです」
「あれのせいで会えないとかあれが邪魔になってるってこともないようだし…これは如何ともしがたい」
悩む憂愁の君親衛隊トップたち。
周りの隊員たちも皆一様に唸った。
そんな時だった。
急に、教室のドアが、いい音を立ててスライドされた。
「な、なんだ!?」
思わず叫んだのはお茶係だった。
お茶係を見て、教室のドアをスライドさせた人物がにやりと口元を歪めた。
「なんだ、元木、まだここに所属しとったん」
「……時田さん…その…俺もさすがにこいつらほっとくのは無理っつーかだって、普通に考えてこの集団…」
「ま、可愛いどころばぁあかりやもんねぇ。そやないのも、ちょーぴしまじっとうけど。俺が関わっとるせいで俺のハーレムとか言われとるけど、ちゃうのにねぇ」
「そうっすね」
「で、や。悩める親衛隊にいいこと教えたろおもて」
「名誉会長、今日は来れないのではなかったのですか?」
名誉会長は静かに頷いた。
「『仕事終わったら、相手してやるよ』やってーほんまかっこええわぁ」
お茶係は納得したように頷いた。名誉会長の恋人は確かにカッコイイ。格好良いが、大変性格に問題がある。それでも名誉会長をちゃんと大事にはしているので、誰も何も言わない。いや、言ってはいけない。自分の身が大事なら。
「さて、置いといてや。あの湿気って面白みのかける……もとい、素敵な恋愛とかご縁がない憂愁の君には、ラブ的な事故がないとあかんとおもんのや」
「ラブ的な、事故…!」
「それは、所謂、ラブハプニングというやつですか!」
「そや。ピンクのワゴン乗って旅行するくらいのラブチャンス的なものもないとあかんな」
「なんと、それはまさか伝説の!」
「そや。と、いうわけで、今から、憂愁の憂鬱な事故作戦会議を開始する」
お茶汲み係は思った。
教室内は大いに盛り上がっているが、そのラブ的な事故とチャンスは、憂愁の君をひどく憂鬱にさせるのだろうな。とか。
なにより、憂愁の君はこの前の落とし穴事件でドキドキしすぎて、ちょっと気になる筧史郎からグレードアップされてる。とか、そんなことをこの場で言おうものなら、名誉会長に理不尽なことをされるんだろうな。とか。
すみません、閂さんとか。