ある晴れた朝の登校時。
寮から学校へと続く道。
「癒される…」
誰もが遠ざかる旧校舎屋上。望遠レンズで読み取った唇の動きから行動は開始される。
「い、や、さ、れ、る…癒される!?」
「なんですか!何が起こったんですか、隊長!」
「ユウ様が、癒されると発言なされたんだ!」
朝は名誉会長が一緒ではないことが多いため、旧校舎屋上から望遠レンズで唇の動きを読んでいる癒し隊隊長は、思わず小声で叫んだ。
「なんという…ことでしょう…!」
難題を抱えた住宅を改築する際に驚きの名案を告げるナレーションのように、副隊長は驚いたあと、今は隊長に使用されていないオペラグラスで、解りづらい視線の先をたどる。
「むむ!あれは…!」
「どうしたんだい、副隊長!」
「大変です、隊長!あれは、我らが天敵、転入生、です!」
「そんなバカな!先日も、めんどくせぇ事件で憂愁の君にため息をつかせた原因の一つではないか!」
それだけではなく、癒し隊の癒されてもらうためにするさり気ない行動をいつも邪魔してくれる人物であり、なんだかんだとやんごとなき……目立つ人物に遭遇しては、ただならぬ様子で交友関係を迫ってくる人物でもあり、彼らが愛する憂愁の君もその被害を受けている。
彼らはその転入生を、こう呼んている。
天敵・押し掛け女房。
押し掛けた女房が歓迎されるとは限らないのである。
しかし、本気で転入生に『女房』になってほしいわけではない彼らは決めた。
これは全力で阻止しなければならない!と。
憂う心は秋の空という名のメールマガジンに思いの丈をぶちまけて、癒し隊はそれを全力で阻止することになった。
だが、彼らは気が付いていなかった。
閂愁二の目がとらえたのは、歓迎されない女房などではなく、その腕をがっちり捕まえられ、押し掛けられ友人になってしまった筧史朗(かけいしろう)の食事風景だということに…
これは閂愁二が筧史朗のブラックホール胃袋に感銘を受ける前の話である。