突然いなくなったあんたを憎んでいるのか、あの頃と同じように思っているのか解らない。
「あー!また寝てっし!」
最近補佐として入ってきた小山内星(おさないあかり)が俺を発見して笑っている。
俺は小山内の明るい声を耳におさめながら、浅い夢を見る。
あんたはいつも俺に、困ったような視線を向ける。
俺があんたを好きだというだけで、あんたは俺に困ったような視線を向けるのだ。
あんたはいつも、俺の言葉には『そうか』って言うばかりで答えようとはしなかったが、俺を邪険に扱うこともなかった。
会える日は一日も逃さず会っていたような気がするし、会うたびにあんたのことを好きだと言った。俺はただ、本当に、あんただけが好きで、好きで、あんたと一緒にいられればそれでよかった。
そう、それで、よかった。
けど、あんたはいなくなった。
あんたのいなくなったチームは荒れて、あんたのいなくなったチームに残るのはつまらなかった。
「会長、そろそろ起きてくださいよ。アカが来たんですから」
あんたはチームの誰もに好かれた。澄ました顔をした副会長。ふらふらしている会計。愉快犯の双子書記。その他にも色々好かれていた。
アカ。
あんたの好きな色で、あんたが好んで身につけた赤い色から、呼ばれた名前。
他の連中は忘れたように、小山内をアカと呼ぶ。
小山内はアカと同じくらいの身長で、身のこなしもよく似ていたが、俺が二年探し続けたアカではない。
だから、起きてやる必要もない。
しかし、俺はゆっくり目蓋を開く。
二年、あんたを探して、俺は自分自身の感情がよく解らなくなって、ふと気付いた。
あんたに会って、俺は何をしたいのか、解らなかったのだ。
あんたを殴りたかったのか、もうどこにも行くなとすがりたかったのか、今度こそ自分自身の気持ちを通したかったのか。
解らなかった。
そうして、俺は、あんたを熱心に探せなくなった。
「なぁー、アケ、一緒にクッキー食べようぜ!」
あまりにアカと一緒に居すぎてシュイロだの、イロだのと言われた俺は、アカにはアケと呼ばれた。
「……ねみぃ…」
ただぽつりと呟き、俺は小山内に首を振る。
「どれだけ寝るんだよ!」
やたら嬉しそうな小山内は無視し、俺は立ち上がる。
「帰るわ」
「ちょ、桂木(かつらき)会長…!」
副会長が止めるのも聞かないで、俺は真っすぐ寮にむかう。
俺がゆっくり、少し眠気にとらわれながら廊下を進んでいると、前から誰かがやってきた。
それは、俺より少し背の低いくらいの、ぼんやりとして印象に残りにくい感じのやつだった。…いや、ぼんやりとしていたのは俺だったのかもしれない。
やたら、眠かったのだ。
道も定まらぬまま、ふらふらと歩き、すれ違いざま、そいつとぶつかる。
俺は後ろにこけるというより倒れかけ、そいつが俺の腰を素早く抱えた。
ふわふわした心地のまま、遠くに声を聞いた。
「アケ?」
俺は意識を手放しながら、あんたの呼び名を呼べたろうか。
あんたのことは、やっぱり、好きだ。
憎いと思っているし、傍にいたいし、できたら、恋人になりたいし、キスしたいし、セックスもしたい。
俺は、あんたが好きなんだ。