「数日間、距離を置いて欲しい……ノーかいいえで答えてくれ」
「いや、そらあかんやろ!」
学校の裏庭に呼び出され、出向いてみれば相原が意気消沈といった様子でぼそぼそと告げた。おそらくまた罰ゲームだ。相原自身、罰ゲームをしたくないと思ってくれているらしい。木崎に引っ張られ、いかにも嫌々といった様子だ。その上、最後まで抵抗を試み、俺に罰ゲーム内容を告げたものの、俺にはあくまで嫌だといってもらいたいらしい。
「相原は、罰ゲームがかかるようなことはもうやらないほうがいい」
俺の感想といえばその一言につきる。
相原は大きく頷いてくれた。
「えー……めっちゃええ鴨やのに……」
俺はそれを聞いて、木崎に原因があるんだなということに気がつく。もしかしたら、相原が罰ゲームを用意される何かしらに弱いのではなく、木崎が強いだけなのかもしれない。
「数日間っていうのは、具体的に何日?」
「何日で駄目になるかっちゅうのを賭けるから、それ次第やろな。一応、一ヶ月が最長ちゅうことにしとるよ」
俺はそれを聞いて、相原の気まずそうな顔を見て頷いた。負けず嫌いなところのある相原は賭けられると、駄目になると予想された最長の期間以上に距離を置こうとするだろう。
「なるほど。じゃあ、ひとつだけいい?」
「なんやろか」
「俺もその賭けに参加する。皆が示す期間中、皆にばれずに相原と接触し続けたら、俺の勝ち。しばらく……そうだな、三日くらい。相原は俺が独り占め」
木崎は俺の言葉にぽかんとした後、急に笑い出し、頷いてくれた。
「ええよー。ほんなら、皆に説明しとくわ」
相原は、ただぽかんとした顔で俺を見ていた。
男前が台無しである。
一瀬はずるい男である。
天然たらしであることもそうだが、こうして自分自身に有利なルールで罰ゲームに参加してしまったあたりが、本当にずるい。
「ハッツーまた、罰ゲームに参加したんだって?」
「今度は皆に、相原と会っているのがばれてはいけなんだけど……協力してくれる?」
そして、なんだかんだ勝負強く、味方にすれば心強いミソカをまず最初に引き込むあたりが、更にずるかった。
「してもいいけどー……」
ミソカは一瀬の兄といえど、こういったことには何かしら得がないと味方をしない。一瀬はそれを心得ていた。
「なら、俺が相原のことをこれから久住と呼ぶこと、相原と呼んだらペナルティ、で、どう?」
「それはハッツー平気そうだし、簡単だよねぇ。そこに、くずみんがハッツーのこと、ハツカって呼ぶのと一瀬って呼んだらペナルティ。あとは……毎食、俺の好物を何かメニューに入れることで、どう?」 俺まで巻き込まれてしまったが、最初に巻き込んだのは俺である。強い味方を得るために、俺に否やはない。
俺は一瀬が聞いてくる前に頷いた。
「久住もいいみたいだから、それでいこう。メニューは、今日の晩からでいい?」
「オッケーだよん。あ、そうそう、一つ提案だけど」
「何?」 「朝は一緒じゃないほうがいいね。今晩から、深夜ここにきて、早朝には帰ろう」
一瀬が頷く。俺はそれに頷けないものの、嫌だとは言わなかった。朝飯を一緒に食うのは、気に入っていたから、残念で仕方ない。
「終わったら、また一緒に食おう」
一瀬がそう言ってくれるのが、せめてもの救いだろう。
しかし、いつも深夜に俺がこの家に来ると寝ている一瀬が果たしておきていてくれるのだろうか。
それだけが、今の俺の心配していることだ。
罰ゲームについては、こうなったら、なるようになるとしかいいようがない。
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