何故こんなことになったのだろうか。
考えてみたところで仕方がない。
とりあえず状況を整理しよう。
まず、不良に絡まれた。まるでテンプレートのような絡まれ方で『てめぇ、生意気なんだよ』『相原さんの恋人とかよおーお前みたいなのっぽがよぉー』ときたものだ。のっぽか…悪口にしても、間抜けだなぁ、のっぽ。と思っていたのがよくなかった。
気がついたら、殴りかかってきていた。
ので、避けた。
ら、こうして避け続ける事態に陥った。
喧嘩をするということは得意ではない。むしろ苦手だ。
しかし、攻撃はできなくとも、回避や防御はそこそこできる。何故なら、昔から兄に絡まれ、兄の友人に絡まれ…大変迷惑をこうむってきた。
その迷惑をこうむってしまった相原の願いなら、少々回避ができなくともきこうと思っていた。だから、相原とは『付き合っている』わけだ。
「てめぇ!よけてんじゃねぇーよ!」
ゼェハァ言いながら迫ってくる不良に、俺は緩く首を振る。
「無理だな」
痛いのは嫌いである。
できたら、こうして絡まれるのもごめんこうむりたい。
「てっめ、なめてんな!」
そして、舐めることもできない。
全力で逃げたいから、全力でよけて、さっさとここから離れたい。
「なぁーに、やってんの、ハッツー」
ここで、相原が登場すれば完璧だな、色々。と思っていたのだが、登場したのは兄だった。
「それ、俺のだぁーいじな、おとーとなんだけどー」
鈍い音がしたなと思ったら、不良の一人がうずくまって腹を抱えていた。
あとはすごかった。『あ、あいつ、一瀬三十日!』『なんだと…!あの、伝説の!』とかざわざわしているうちに、俺は兄に助けられていたわけで。
「ハッツーさぁ…俺のおとーとだしもうちょっと、あるんじゃないの」
「何が」
「何がって、殴るとか蹴るとか」
「そういうのは俺も痛いし、だいたい得意じゃない」
「あー…もー…ハッツーもー……んー…ていうか、襲われなきゃいいわけだよねーそだよねー…」
そして、兄がそのあと何をしたかなんてことは、あとでしった。
兄曰く、ちょっとしたおしおきと教育なのだそうだ。
あいつがうちの下っ端に襲われたその日。
一瀬三十日は俺に会いにきた。
「はろーん。ちょっと、話あるんだけーどー」
あいつがいないときに、ミソカに会うのは気が引ける。あまりいい思い出がない。
「うちのハッツーが、くずみんのー下っ端に襲われたんだけどー、そういうの、ないようにしてくれないとーお付き合いは許しません。というかー」
白々しいにもほどがある適当を言ってますという態度のミソカは今のところ、本気ではない。
俺はそれとなく頷いて話を促す。
ミソカは続けた。
「ていうかー罰ゲームなんだってー?……俺、聞いてないけど、どういうこと?」
あいつと、このことがばれたら面倒くさいとミソカには罰ゲームのことは伏せておいた。
「俺ねー、おとーとのことはそれなりに大事にしてんだけどー後輩のことも、それなりに大事なんだよねー」
ニヤニヤと笑うミソカには嫌な思い出しかない。
よからぬことしか言わない気がしてならない。
「二人とも知ってて、付き合ってんでしょー?なら、二人とも脈有りってことなんだよねー!まぁ、くずみんにその気はあって、気づいてるかもだけど、うちのおとーとに限ってそれはないよねーにぶにぶだもんねー」
この減らず口をどうやったら止められるのだろう。
そう思った時には手が出ていたが、兄弟そろって動きは素早い。
避けられた。
「俺が、二人のキューピッドになってあげるね!」
名付けて、二人はラブラブ大・作戦☆といって、ミソカはくるりと回った。
…誰だ、『なんやそれ、面白そう…』と言った奴は。
…、いや、一人しかいないか。