「久住さんとは、どういったご関係なんですか!」
罰ゲームだというのに、十日ほど見かけていない相原の代わりに見かけるようになったのは、十日ほど前に絡まっているのを助けた不良だった。
罰ゲームなのだから、木崎や兄が何か言ってきていいくらいなのに、何も言ってこないのは大変不気味であるのだが、俺はそんなことより相原のキスについてと、相原に会えていないことについて考えていた。
おかげで注意力は散漫で、いつもよりぼんやりしているはずなのだが、いつもぼーっとしているため、誰に何か聞かれることなくぼんやりさせてもらっている。
そのぼんやりしている最中でも、俺を見かけては嬉しそうに近寄ってくるのは、助けた不良である。
俺が、相原はあの時キスをしてきたけれど、あれ以来相原にあわないということは、相原が俺の何かに腹を立てているのか、相原はあの程度のキスでうろたえている俺がお気に召さないのか、いやむしろ、あのことで俺を嫌に思っているのかとか、そんなことを考えているとは思っていない彼は、無邪気に俺に相原との関係を聞いてくる。
罰ゲームで二回恋人になった。今も昔も変わらず、恋人のようなものだ。
それを答えようとして、俺はふと思った。
相原と俺が罰ゲームで恋人となっているということを彼は知っているのだろうか。
恋人だということは、絡まれるたびに言われている。
しかし、罰ゲームでもだとか、そういうことは言われたことがない。
罰ゲームで付き合っているという事実は、知っている人間がすくないのかもしれない。
俺はそう思い無難な答えを選んだ。
「恋人、だけど」
「いや、それはその、そうですけど、そうじゃなくて」
彼は感情が表に出るタイプだ。
俺と相原の恋人というのが、好き合ってなったものではないというのを感じているらしく、何か釈然としないようだ。もしくは、裏があると思ってくれているといっていいだろう。
だから、俺と相原の関係を聞く。
俺はまた、考える。
恋人でないのなら、俺と相原は一体どんな関係なのだろう。
あんな一瞬のキスでうろたえてしまえるほど、俺は唇を大事にしていたわけではない。始めてしたわけでもないし、嫌だったわけでもない。
初めてではなくても、キスに対する理想みたいなものはあったかもしれないが、その理想とやらが、今、思い描けない。
キスといえば、このまえ、相原としたそれしか思い浮かばないのだ。
理想と現実では、現実の方が思い浮かびやすいのかもしれない。
それでも、相原とのキスは、忘れられないと思う。
「好きなのかな」
思わずポツリと俺は呟く。
「え」
十日もかけた。
びっくりしているというには、少々長すぎる期間だと思う。
ショックだったわけではない。驚いたし、不思議に思った。
でも、最終的に、相原で良かったと、思った。
「好きなんだろうなぁ…」
「え?ええ?の、のろけですか?」
恋人ならそういうことになるだろう。
俺は曖昧に笑って、いつもどおり人の頭を撫でる。
「うん、まぁ……ちょっと複雑に見えるだけの関係かな」
「俺には、ちょっと複雑が、かなり難しいんですけど」
相原は俺が手を頭に伸ばした時点で嫌そうな顔をして手を払ったりする。なんだかあの反応が懐かしい。
もし、相原が俺と遭遇しないようにしている理由が、俺とキスをしてしまって気まずいということなら。
「うん、とにかく、俺は相原のこと好きだよ」