まずはその足で足を踏む。
後ろに逃げられずにいる人間をその拳で殴り、そのまま近づいて肘をいれ、最後に踏んでいた足で膝を入れたあと、斜め下に向けて叩きつけるように蹴る。
狙いどころが悪ければ致命傷。
上手いこと微妙に外してくるのだが、それでも起き上がれない人間は多い。
力加減というやつをよく知っている。
どれくらいで人間が動けなくなるか、どのくらいで起き上がれるようになるか。どのくらいなら病院に行かないでいいか、どのくらいなら病院に行ってくれるか。
よく知っている。
少しずつ加減を見るように、その一連の動作も力の入れ具合を変えていた。
地面で呻く前に、ヨロヨロとでも立ち上がったら、嬉しそうに目を細める。
色っぽいだとか言われる表情を浮かべる。
俺はあの目に心当たりがあった。
だからこそ、俺はチームの連中を引き連れてそいつのチームに喧嘩を売りに行ったのだ。
「いやいや、うちみたいな弱小、なんで、おたくらみたいな大きいチームがつぶしにくんねんな。虫やおもてあきらめてくれひんやろかー」
そう言って困ったように笑うやつには用がない。
その隣で同じように、微妙な表情をしているやつに用がある。
「小さいチームも弄んでやるのが大きいチームの甲斐性ってやつだろ?」
「いらんわ、そんな甲斐性」
即座に突っ込んでくるやつを無視して、そいつに目を向ける。そいつは、俺を見てすぐに、まるで道端に打ち捨てられた雑巾でも見たかのような目をした。
ゾクゾクした。
「反吐が出る」
一言つぶやかれ、俺は、ニヤリと笑う。
「そんな暴言吐いていいと思ってるのかよ」
「黙れ、この…」
そいつは言いかけて、口を噤む。
最後まで言ってくれてもいいにも関わらず、そいつはいうのをやめた。
俺を見る目は、ゆっくりとそらされる。
「カイ」
「何ですか?」
「そこのク………他チームのヘッドには丁重におかえりいただけ」
「罵ってもええと思うんやけど」
「罵ったら悦ぶ、クソ豚には……他チームの変態…あー…」
だるそうにつぶやかれた『あー…』に、内心無駄に悶えたが、おくびにも出さず鼻で笑ってやる。
「規模がちいせぇだけでなく、たまもちいせぇんじゃねぇの?」
引き連れてきた連中に、なぁ?と問いかけると、下品に楽しそうに笑ってくれたが、そいつは一度ため息をついて肩を下ろした後、いつもより素早く動いた。
足を踏んだと思ったら、右の拳がきて、足がきた。
その思い切りのよさは、普段の比ではない。
右の拳からして確かめるような感触はなかったように思う。確信をもって俺の頬を殴ると、肘を使わず踏んでいた足を上げ、すぐさま蹴ったのだ。
衝撃を逃すために自分自身で飛びながら、俺は恍惚とする。
「ソレでおうちに帰って自慰でもしてろ、豚野郎」
吐き捨てられた言葉に、連れてきた連中に受け止められながら、思わず呻く。
力加減は絶妙、罵りも合格。
「やっべぇ…ご主人様になってくんねぇかな…」
「ヘッド、ちょ、なにいってんすか」
「いや、どうせすぐ飽きるって、ヘッドの条件厳しいからなぁ…」