strawberry on the cake


「おやつー…はるのおやつー…」
自業自得だった。
俺の姉と尚の兄は友人で、俺は姉につれられてやってきた戸田家で、おやつのケーキを床に落とした。
ショートケーキが嬉しくて皿をもって踊りだしたのがよくなかった。
あれ以来俺は食物をもったら小踊りはしないと決めている。
ただし、尚からメールがきた場合はのぞく。
指定の着声が響くたび踊りだしてしまう。
ちなみに、声は「メールか?」っていう尚。雑音頑張って排除したよ俺は。
とにかく、無残につぶれたショートケーキを前に愕然とする俺なんか無視して、尚は床のショートケーキの残骸を片付けていた。
尚は昔からイッツソークールなのだ。
「はるのケーキ…」
片付けられていくケーキ。泣きそうな俺。ため息をつく尚。
尚はたぶん、最高にうざったいなと思ってたに違いない。
「俺のケーキやるから」
と尚の生クリームなんてのってないガトーショコラをくれた。
今の俺ならそれだけで黙った。
でも、子供のケーキの肖像なんて、生クリームで苺が定番で。それでなくてもチョコレートケーキだって生クリーム塗ったくってあるのが普通だと思っているもんだ。
ガトーショコラなんてケーキではない。
「ケーキ…これ、違うもん」
「はぁ?なら、何がいいんだよ」
「白くて、苺のったやつ…」
まさしくそれが俺にとってのケーキだった。
「……」
自分自身のケーキをみて、尚はまたため息をついた。
そしておもむろに立ち上がると自分の部屋に走っていって、でっかい豚の貯金箱をもってきた。
ピンクの、耳元に花がある豚を引っ繰り返して、本来お金を入れるはずの口から無理矢理、銀色のお金を数枚出して、俺の手をとった。
「泣くな、いくぞ」
尚は。
この頃からクールなだけでなくおっとこまえだった。
今の俺ならきゅんとするどころか襲い掛かる場面だが、その頃の俺は純情無垢で。きょとんとしてひっぱられるままついてった。
たどり着いたのはケーキ屋さん。
めったにいくことのないそこは甘い匂いで満ちていた。
ガラスのショーケース越し、いろんなケーキがそこにあって俺は目を輝かせたに違いない。
「けーきっ」
「…」
尚はそれどころでなくて、手のひらに広げたお金と、俺がほしかったショートケーキの値段を確かめるのに一生懸命だった。
ショートケーキの値段は380円。手のひらの銀色のお金は四枚。
一つは穴が、開いていて。
尚は30円の不足に眉間に皺を寄せたのだ。
家に帰れば30円くらい、豚の腹にあるだろう。
けれど、目的の物を買わずして家に戻ろうとすれば俺はきっと泣いていた。
尚は俺をよく知っていたのかもしれない。
…愛だ。
あの時、豚から金を出さずに抱えて来ればよかった邪魔だけど。面倒だけど。なんて、尚が思ってるなんて思いもしないで、俺はケーキに夢中だった。
尚は苦い顔でくまなくショーケースを眺め、そして、意外な解決方法を見出したのだ。



「うわ、先輩、またすか」
後輩が呻く。
これが正しい食べ方だもん。と、俺はシュークリームの中身だけをもりもり食べる。
皮とカスタードはいらないので、そっと閉じる。
「生クリーム、マジ好きなんすねー」
「ん?ちがーう。シュークリームの生クリームだけ。
あーいちごとガトーショコラもあれば、合格?」
尚は。
あのとき、イチゴ入りのシュークリームを見つけた。
それをかって、俺がブーブー言ってるのをつれかえり、そのシュークリームの生クリームとイチゴをガトーショコラに載せて、俺にくれたのだ。
尚はカスタードのみが入ったシュークリームを食べて、俺にきいた。
「それ、おいしんですか?」
後輩のことばに、たぶん、俺はあの時と同じように答えた。
「んまい」






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