スキスキ!


入学して早々、騒がれる知人を見て思った。
この場に馴染むにはどうしたらいいのだろう。
そして、俺はすぐさま答えを出したのだ。
「れーち」
「そうくん、今日も会議だよーめんどうだよー」
常にサボりたいという欲望を持っているれーちは、俺と同じようにまわりに合わせるという機能をフル装備していた。
入学式の日、俺たちのまわりに会長派という名のファンしかいなかったのが災いしたのだろう。まわりの様子をいち早くキャッチしたれーちは俺と同じように、まわりに馴染むことにより、この学園で平穏を得ようとした。
れーちはちょっと前まで、かわいい子と見れば粉をかけておくこの学園では、どこの誰に襲われてもおかしくない美少女にしか見えなかったのだから、この判断は正しかったと思う。
そうでなければよくわからない親衛隊が出来ていたかもしれないし、とっととこの男の園から出て行ったことだろう。俺と一緒に会長親衛隊に入ってくれたことに感謝せねばなるまい。
そうでなければ俺は、親衛隊で受け入れられ、れーちと一緒に親衛隊の双璧などといわれるものには慣れなかった。だが受け入れられすぎたといっても過言ではない。
「親衛隊内部の平和のためだ。パンダくらいやっておけよ」
「そうくんは、目立たないためにすぐ俺をパンダにするー」
俺は、美少女の隣に入れば美少女を守るボディーガードにみえ、イケメンの隣にいれば、イケメンを支える従者に見える。どちらも、影ながら支える普通の人だ。
そんな俺が双璧に数えられているのにはわけがある。
この学園一のいい男が、俺とれーちに加わると、たちまち俺がいい男に仕立て上げられてしまうのだ。
「えーりのいないときくらい、目立たねぇ立場を堪能させろ」
実は親衛対象である生徒会長橘瑛吏(たちばなえいり)は、中学の頃からの知り合いだ。入学式で騒がれていた知人というのもそいつだ。
その中学の頃実家に反発してヤンキーをしていたえーりと、中学の頃塾通いのストレスを発散していた俺。
出会いは夜中、少し電気が薄暗い自動販売機の前。
やたらに目立っている伝説のヤンキーえーりが自販機の前に立って小銭を探していた。
下っ端に命じればすぐさま買いに走らせることもできる伝説級のヤンキーえーりが自販機の前にいたのは珍しいことだった。
俺は小銭を探すえーりに、これはヤンキーだなと避けて通る予定だったのだが、小銭がない事に気がつきため息をついたえーりを見てしまい、ついつい小銭を財布から取り出してしまったのだ。
「どれが飲みてぇの?」
「はてな、缶……?」
横から聞こえた声に思わず答えてしまったえーりをよそに俺は自販機に小銭を入れてスイッチを押す。
自販機にはハテナマークが描かれた缶があった。
何が出てくるか解らないミステリー缶とも呼ばれるものなのだが、そのミステリーさが人を駆り立てる。ちょっと普通のジュースより安いのもポイントだろう。
出てきたのは、つぶつぶオレンジミックスサイダー。
オレンジと銘打たれているのに一体何がミックスなのか知りたいジュースであったのだが、それを渡すと、えーりは俺にぽかんとした顔を向けた。
「いいもん当たらなかったからやるわ」
理由としては妥当だったように思う。
もう一度小銭をいれてミステリー缶を押すと、ゼリーミックスグレピーチスカッシュなるものが出てきた。
こちらが当たりとは言い難い。
なおもぽかんとしているえーりに、俺は首を傾げる。
「いらねぇの?」
えーりは缶と俺を交互にみたあと、呆気にとられた顔をしたまま礼を告げた。
「あ、ありがとう…?」
「おー」
それが可愛かったというのが、俺がえーりを構う動機になった。
えーりは目立った。
だから、近づくのはやたら簡単だった。
別に俺に悪い印象があるわけでなし、俺が接触を図るたびぽかんとするえーりが面白くて可愛くて、やたらかまっているうちに俺も有名人となってしまった。
そんなわけで、今もそれと同じような現象が続いている。
「自分から目立ってるくせに」
「あれを構わないでいられるほど、俺も物事に無関心じゃなくてなぁ」
「確かにああなられたら可愛いよねーフォローすんの大変だけど」
えーりは未だ俺が接触するとぽかんとする。俺の接し方に問題があるのだが、えーりはどうも、俺という人間についていけていない。
「最初はなんでお前がここに。のぽかんだったよねー」
「あれは可愛かったな、首まで傾げたもんな」
「次のぽかんが、どうしてそれを知っているだったよね」
「あいつの好きなもんなんて親衛隊なら誰でも知ってんだろ。どんだけ親衛隊に興味ないんだよ」
「そうくんに対する反応だけだと思うんだよねー。そうくんがやることなすことオットコマエなんだもん」
「さようで」
「僕らも思わずぽかんだよねーどこでもさりげなく遺憾無く男前のたらしこみをおこなっちゃうんだもん」
「あれで、えーりは俺のこと好きじゃねぇからなぁ…そこが面白いんだが」
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