えーりは確かに、そうくんのことを恋愛感情で見てはいない。
いつもそうくんが男前にたらしこみを行なったあと、悔しげにしている。
その上で僕に話を持ちかける。
「あの野郎を間抜けヅラにさせるにはどうしたらいいんだ」
「僕もみてみたいんだけど」
親衛隊の双璧なんて言われているけれど、僕とそうくんとえーりは仲がいいから、二というより三の何かだ。
そう、そうくんは出会い頭、えーりをぽかんとはさせるけど、毎回そのあとは普通にいい友人をしている。
そうくんはそういう感情でえーりを構っているし、僕も親衛隊のメンバーとこっそり作った見守り隊で二人を応援しているけれど、えーりには一向にその気が起きない。
そうくんはそれはそれで楽しいし、急を要するわけでもないってのんびり構えてるから、迫るでもない。
二人をみると恋人より先に夫婦になってしまうんじゃないかなって思ってしまう。そうくんがまったくがっついていないせいだ。
かくいう見守り隊の僕らも、二人がくっついたらそれはそれは幸せな気分に浸れるだろうとは思っているものの、今のままでもなんだか十分だと思ってる。だからこその見守り隊だ。
どうしてあんなにたらし込まれてるのに、一向に恋愛感情が出ないんだろうとちょっと前までは思ってた。
けど、恋愛感情が出る前に、えーりはそうくんを憧れの『兄貴』にしてしまったから仕方ないのだろうなと最近気がついた。
「そうくん、感情の起伏がなだらかな人だから」
おおらかなのだ。
すぐに縁の下の力持ち的位置に移動するそうくんは、感情の起伏がなだらかな人だ。常に楽の表情を見せている。
何事も楽しむが、彼の座右の銘なのだ。
「しいていうなら、えーりを出会い頭口説いてる時はイキイキしてるけど、あとはいつもどおりだし、おどろかしても、おーびっくりーとかいうよ」
「それ、驚いてねぇよ。つうか、口説くとか認めたくねんだけど」
明らかに口説いてるんだから本人が認めたくなくても、そうなのである。
「認めたげてよー。そうくんすっごくえーりのこと好きだよ」
「その割に思春期がねぇんだよあいつ」
「あったらどうするのさ」
「殴る」
「なくてよかったよ」
照れ隠しでもなんでもなく本気なのが怖い。
「そうはそんなんじゃねぇんだよ」
そうくんに理想持ちすぎなのも困ったものだ。
そうくんはえーりの憧れだ。えーりは俺様だし、偉そうだし、結構短気だし、穏やかって言葉が似合わない。
けど、そうくんは、泰然自若という言葉が似合う穏やかで、頼りがいのあって、ユーモラスのある人だ。
自分にないものに憧れるのは普通のこと。
だけどそうくんがどんなに穏やかでなだらかで、思春期を通り越したようにみえても、男なんだから。すきな子くらい押し倒したいんじゃないかなぁと思う。
その気にならなければ確かに何もしなさそうだけど。
人のスイッチっていつ入るかわからないものだよ、えーり。
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