そんな俺が本気を出さねばならないときは、わりとすぐやってきた。
実技試験で来る事となった、魔法世界のうっそうとした森でのことだった。
世間はゴールデンウィークだというのに試験だなんて鬼のような所業だと、いつも通りやる気のない俺に、アクシデントは勝手に歩いてやってきた。
その森は、人間が踏み入るには深すぎるといわれるような場所で、俺の世界では架空の生き物と呼ばれる生物が多く存在している。
「不幸、だなぁ」
とぼやいたユスキラは剣を構え、自身よりはるかに大きな生き物を見上げた。
「不幸というか不運というか」
溜息をつくのはもう、癖のようなものであるアークが杖兼得物である弓をひく。
その傍らで、眉間に皺を寄せてローエルが大剣を構えた。
俺は彼らのすぐ後ろで、思わずニヤリと笑う。
俺たち四人を束にしても小さく見える、巨大な生き物。
それは竜だとか呼ばれる生き物だった。
竜にも種類がある。
弟がはしゃぎまわって俺に電話をしてきたときに竜だと発覚したヒューイットくんみたいな知力が高く、人の姿を取ることができる竜もいれば、問答無用で人に襲い掛かる、あまり知力がない竜もいる。
俺は目の前の竜をしばらく眺めて、武器なんて出さないで、竜に向かって尋ねる。
「話、できるよねぇ。この森の竜は統治されてるはずだもんねぇ、ラクリゼア家に」
今まで武器を構えていた友人たちが妙な顔をして俺に振り返ってくれたが、俺はお構いナシだ。
『…よく、知っているな』
俺の発言に、武器を構えたときより警戒された。
それは当然のことだ。
あまり知られていないことを俺が言ったんだから。
「まぁ、勉強したからねー?それで、ラクリゼア家縁の竜なら…イーディアスって竜、知ってるよね?」
『それを知りたいのか?』
「そうね、しりたいねぇ。俺はそのためだけにここにいるんだから」
俺は魔法を立証するために、ありとあらゆる本を読んだ。
妖しい魔法関連の本を読むうちに、一つの本に辿り着く。
それは、一時魔法世界でブームになったという本で、同じ本を持っている者と短い文をリアルタイムで交換できるという…所謂チャット機能を持った本を見つけたのだ。
それのお陰で、俺は欲しい情報も、読みたい本も見つけられ、今でも、同じ本を持つ奴とチャットをやっているわけで。
俺はそいつに、ずっと会いたかったわけだ。
そいつに会いたいがために魔法世界に繋がる学校にい続けたのだから、俺というやつはちょっと一途なんじゃないの。とか思ってしまう。
『ならば、力を示してもらおう』
竜は俺をしばらく眺めた後、一言そう呟いた。
そういわれると思っていたんだ。
妖しい人間のいうことなんて簡単に従わないくせに、人間自体には興味があるのだ。
特にラクリゼアの竜はそうである。とチャットしてくれるイーディアスはいっていた。
「と、いうわけで、手出しは無用だから」
「って、お前…ッ、無謀だろう、知性ある竜だぞ!?」
苦労性なアークが俺の胸倉を掴んで揺さぶってくる。
考えてもごらんよ、別にとって食われるわけでもない。怪我はちょっとしてしまうかもしれないけど、力を示せってだけで、別に退治してみろよといってるわけでもないし。こちらを皆殺しにしようとしてるわけでもない。
話をちゃんとしてくれるってことは、面白いから付き合ってくれてるってことだって。
なんてことも、揺さぶられてちゃ言えない。
「アーク、クールダウンクールダウン。竜と決闘する前に、みったんがシェイクされて気分悪くなるからね」
ユスキラのいうとおりで、すでにちょっと気持ち悪い。
漸く揺さぶられることから開放された俺は武器を召喚する。
斧のような、槍のような。
普段かりている戦斧よりは繊細で、突くための槍よりはごつい。
なんとも中途半端な武器を持ち、構える。