「みったんの本気が見れるかもって、ワクワクしてたんだけど、あからさまに普段は本気じゃないですよ。ってのを見せ付けられるとムカツクよね」
ユスキラが剣を腰の鞘に収めながら、まったく嫌なやつだなぁ!とわざとらしく言った。同意して頷いているその他、二名の友人を見て、竜の声が笑った。
『好かれているのだな』
ここでそうだねというと、きっと三人とも文句の一つや二つ言ってくれるのであえて頷きもしないで、俺は駆け出す。
三人は俺の本気とやらが、たったの一年でかなりの実力者並みに思っているようだが、武術だけでいうと一年という限られた期間での実力でしかない。
幼い頃から武を志してきた人間とは明らかな差異がある。
俺に才能があっても、経験や、長いこと磨かれたものに比べたらまだまだ付け焼刃の領域を超えない。
それよりもまだ、魔法の方が使える。
魔法もなんとも中途半端で、すべてがB級に届かない。
そのかわり、すべての魔法をC級までもっていった。 地、水、火、風、攻撃、補助、すべてC級。満遍なく習得しすぎなのだというのが元担任の話だ。
確かに集中してやれば、何かはB級にランクアップできたかもしれない。
しかし、俺は、それをするほど魔法に興味がもてなかった。
そんなすべてにおいて中途半端で未熟な俺が、どれほどの力があるか。
高が知れている。
それでも、俺は思う。
弱いのならば、弱いなりの戦い方ってのがあるんじゃないかと。
俺は地面を軽く蹴る。
「舞い上がり助ける追い風、身を軽くする力」
略式詠唱にしても色々あって、俺が使える略式詠唱は本詠唱の三分の一を唱えなければならない。非常に面倒くさくて厄介だが、これをしないと正しく発動されない。
これが短ければ短いほどいいし、最終的には何も言わないでも意思一つで魔法が使えるようになるらしいが、意思一つとか、どれだけすごい仮想の世界を持っているのだ。と思う。
魔法は、自分自身に仮想の世界をつくることから始める。
火柱がだしたければ仮想の世界で火の柱はこうであるという明確な形を成さなければ、いくら呪文を唱えても、それはただの朗読だ。
逆に言えば、仮想の世界で火の柱がこうであるという明確な形さえ成せば魔法は発動する。
呪文はそれを助けるための道具であり、言葉に出すことによって明確な形を得やすいようにするためのものだ。
そして、その仮想世界を安定させ、仮想世界から現実世界に魔法を顕現させるために必要なのが、魔力といわれる自分自身の力と、媒介である力ある石だ。
石に力があればあるほど、仮想世界は安定し、魔法を使うことが容易になり、また、魔力が強ければ強いほど、魔法の威力は強くなる。
火や、水などは身近に変化するものとして解りやすいのだが、地や風となるととたんに難しくなる。
とくに、風は吹くばかりで見ることができないだけに難しい。
魔法なんて信じていなかった俺が魔法を使うには、少々厳しいだろう。魔法は、現実にはこんなこと、起こらないだろう?と思っている人間ほど、不向きなのだ。
だから、弟の方が魔法に向いているといえた。
もちろん、現実にその形をみて、魔法を認識すれば仮想世界での魔法の形成は非常に楽になる。
それでも風は目に見えないため、一番難しいとされている。
俺は、そんな風の魔法の呪文をとなえ、風をうけて、飛び上がる。
右から左へと一閃。
竜は大きい。
俺が魔法を使って飛び上がったところで、首に到達することもできない。
風が吹く。
武器が届くまでもなく、俺は吹き飛ばされる。
おそらく、これは風の魔法。
さすが、竜である。詠唱なしでも魔法が使えるようだ。
俺はなんとかうまいこと着地して別の魔法の呪文を詠唱する。
「おい、詠唱長いけど、異常に早いぞ。あいつ、努力するところ間違ってるだろ」
「形成も早いってことはそれなりにイメージ引き出すのも早いってことだろ…なんで早口言葉に精をだしちゃってんの?」
ローエルとアークが微妙な感想を漏らしてくれた。
それは転科する前の担任にも散々言われた。けれど、俺にとってはその早口言葉を声に出し、耳で聞き、脳に伝える必要があるのだ。
別に、急ぎでなければ、早口言葉を短縮して魔法を使うこともできるのではないか。とは俺も思う。
けれど、一番早くて、一番確実な方法をとったらこれになった。
俺は、魔法を使う上で大事にしたのは、効率。確実に成功させ、より早く、魔法を連弾させる。
地の魔法と火の魔法をほぼ一緒に発動させることで、高度な魔法を簡易に使う。
だなんて、誰がやろうと思う?
火をまとった岩が、巨大な生物に降り注ぐ。
「やだねーみったんって、ホント、頭いーんだ…」
降り注ぐというほどの数を出現させるために、長々と言葉を連ね、乗算させもしたのだから、ちょっとくらい驚いて欲しいものだ。
ユスキラが毛虫を見るような目で見ている気がしてならない。
そんなユスキラは座学は中の下といったところだ。つまるところ、お勉強は好きじゃない。
「うっわ、理数系」
呻いたアークは文系。
「すげぇな」
ちゃんと感心してくれたのはローエルだけって、とても寂しい。
あとで色々言ってやろうと思いながら、竜の風を利用して、俺は自分の魔法と合わせて再び舞い上がる。
「武器振り回しても無駄そ…」
と呟きながら下方に構え、上から下へと武器と一緒に落ちる。
竜はやはり余裕だった。
降り注ぐ魔法は風の結界でふせぎ、落ちてくる俺に再び強風を吹きかける。
しかし、俺とて風に邪魔されることは解りきっている。
邪魔される前に、俺は落ちきる。
そのために加速の魔法を何重もかけた。
先ほどと同じ要領で。
俺が加速しても、その速度に俺の反応がついていかない。だから、一方的な状態で、一方向に意識がないといけない。
今は落ちるだけ。…着地はしなけりゃなんないけどね。
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