騒がしかった兄とその友人たちが試験途中だからと帰った後、遅れて到着したのは、リゼルさんとクラウだった。
リゼルさんは、ちょっと野暮用でとのことだったが、なんの用だったんだろな。
聞いてないけど、リゼルさんは聞いたら教えてくれるだろう。
「それにしても、森にすんでるとは聞いていたが、ここまで深い森だとは…」
それはヒューについてきた俺も思ったことだ。
こんな深い森に住んでるのかって。
けど、エルフがなんとかっていってたし、エルフがいるくらいなんだから、イメージとしてはすんごい綺麗な森で、なんかこんな深い森の中になんの楽園が…ってかんじだったけど。
この森はうっそうとしている。
すごいと言えばすごい。けれど、綺麗よりも怖いが先立つ森。
何か出そうだし、新種の生き物とかきっと発見できるに違いない。そんなかんじの森なのだ。
リゼルさんは言葉を選んだほうだと思う。
「だよねー俺も初めて来た時、ナニコレ、生きて戻れるの?って思ったけど」
そんな森に試験でやってきたとか兄はいってたわけで、兄の学校ってとんだ鬼畜なんじゃないの?俺、いかなくてよかった。とも思った。
実際のところ、俺が行ってるところよりよっぽどちゃんとした学校なのだけれど。
うちの学校はちょっとというか、かなり、ファンシーなところがあるのだ。なんというか、夢見がち。 魔法使いになりませんかとかいう見ていて不安になる入学許可証もそうだし、学校の外観にしてもそうだ。
いかにも女の子が夢見そうな魔法の学園がそこにある。
男子校なのに。
男子校にもかかわらず、食堂のメニューの半分は甘いお菓子やらケーキやら…とにかく世界各地から集められたと言わんばかりのスイーツが集まっており、その食堂も、猫脚の丸テーブルに裾にレースを施した白いテーブルクロス。それをいくつも並べたテラス。美しい薔薇園のような中庭を眺めることができ、壁は落ち着いたオールドローズと生成りのストライプに、金縁をあしらった…とにかく、男が好きそうにないデザインで攻めてくるのだ。
そんな学園には、騎士制度なるこれもまた女の子が好きそうな制度があって、男ばかりのこちらとしてはむっさい男に守られる男、もう、だめだ…みたいな気分だ。
ファンシーなあの学園のほとんどがそんな乙女な様相がいつのまにやら普通になってしまっているが、どうでもいいと思っている野郎連中ばかりだ。
授業内容などは真面目で至って普通の魔法学校なんだけどなぁ。
俺はヒューやリゼルさんを見て思う。
「ピンクのストライプが似合う人種じゃないよねぇ」
クラウならまだしも。
クラウは性格こそ男らしいものがあるが、外見は王子さまなので、乙女趣味な学園に違和感なくマッチしてしまっているのだ。
そのため、俺は最近クラウの事をプリンスと呼んでいる。
本人は嫌がるでなし、仕方ないなみたいな態度であるため、それで定着させようかなと思っている。
「ユキがまたどこかに旅立ってるぞ」
「いつものことじゃないすか、リゼルさん」
「今日は長いねぇ」
だなんて友人である三人に言われていても、俺は気にしない。
鬱蒼とした森の中にある、立派なお屋敷の中で学園に思いを馳せていた。なんていったら、ホームシックといってからかわれかねないからだ。
残念なことに、俺の家は学園の寮じゃないし。ホームシックになんかちょっとしかなったことが…いや、結構ホームシックだったけどさ、四月くらいは。
「ま、元気そうで何よりだ。フアフールはなんだかんだしょんぼりしていたしな」
フアフールとは、魔法世界の四月のことで、正しくはフアフールの月とかいうファンシーな言い方だ。
親衛隊作りたいって追いかけられたり、ヒューが竜だってしったり、生徒会のみなさんと知り合ったりと盛り沢山だったんだけど、やっぱりほら、人間関係はおいといて、文化の違いとかあまりにもファンシーすぎる学園とかのせいで、俺もお家帰りたい!って思ったもんだ。
特に、食文化のせいね。
米はないし、味噌汁ないし、納豆ないし、醤油ないし。
もうパンっぽいものあきたよー米食べたいよーお家帰りたいよーたまごかけごはーん!ってなったもんだ。
五月の連休に入る前に、兄に泣きついて食料と圧力鍋を送ってもらったので、全快したのだが、仲のいい友人たちは俺を慰めるためにヒューの実家に行く計画をたててくれたらしい。
いや、俺がさ、エルフすげーとか、ヒュー竜とかかっけーとかなってたせいだけどさ。
単純でごめん。
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