なっちゃった…Wizard


高校入試も終わり、滑り止めの学校の方が先に通知がきて、本命の学校の通知を待つばかりだった俺に、一通の合格通知。
それは、本命の学校のものだった。
の、だが、もう一通、兄にも同じ合格通知が来ていた。
「だが断る」
といって、破り捨てた兄はいい笑顔だった。
俺は、兄とまったくおなじ通知の魔法使いになりますか?の下にある『なります。』に丸をすると、自分の部屋に一度戻り、ネックレスにつながれた指輪を掲げた。
パン!
といって俺の術印がそれに一瞬映し出されると、ふわっと、それはどこへともなく消えた。
「ああ、これでユキもウィザードの一員かー」
「なんか、ちょっと、兄貴残念そうじゃない?」
「だって、俺の行ってるとこいかないんでしょ?」
俺が滑り止めにしていた学校だ。
兄がかつて滑り止めにしていたのと同じように。だが。
「だって、兄貴も行く予定だったじゃんか、あの学校」
「やーだって、合格通知、いかにもふざけんなな通知だったしさー」
急に変わった兄の髪の色の方がふっざけんな。だったんだけどなぁと思いながら、俺は答える。
「あ、うん。そうだけど」
君も魔法使いになりませんか?
なんて、合格者にだす通知じゃない。
「でも、今、俺はウィザードじゃないし」
「うん。でも、俺がウィザードになるとはかぎらないじゃない」
「いや、ユキはなるよー。ウィザードに」
すっかりマメが潰れて硬くなっている兄の手に頭を撫でられながら、うん。と俺は頷いた。
「そりゃね。俺の目標だしね」
「んー…ま、いっか、あ、じゃあ、春休み遊びまくろうか。こっちから離れるしな」
そして、俺はウィザード…魔法使いになるべく、魔法学園ファスティートに行くことになったのだ。
その魔法学園ファスティートは、全寮制の男子高校だった。
いや、正しくは共学なんだけど、校舎が敷地すら違うし結界で守られてるといったら、それは男子校と同じだと思う。
花がねぇし、騎士だの戦士だのの棟は最悪だ。とはリゼルさん談だ。
そんなリゼルさんは、騎士位をもっているらしい。今は魔法騎士…ウィザードナイトにあたるらしいが、魔法のコントロールはよろしくないらしい。
だから、一年から学ぶことにした。とは潔い判断。俺やヒューイットくんより年上で、一度、騎士の過程を卒業しているようだ。
「一年短縮したから、二歳しか違わねぇよ」
「いや、ダイブ違うとおもうっすけど…」
ケタケタと笑いつつ、ヒューイットくんの頭を撫でるリゼルさんはとても頼りがいありそうである。
いやぁ…なんか、さん付けしなきゃなって思ったけど、見立てどおりの人だったんだな。
俺は親指にある指輪をクルクルと回しながら、なお話を聞く。
ヒューイットくんは、俺と同じ年のようなもの…とは本人談。
身長は俺と同じくらい。
きっついかんじではあるが、ヤンキーとかそんなんではないらしい。けど、リゼルさんには一応体育会系の敬語を使っている。
憧れているらしい。というのはなんとなくわかる。
綺麗な紫色が混じった青い目をしていることから、生粋の魔法使い家計に生まれたんだろうな。と、じっと見ていると、苦笑された。
「イケメンにみつめられたら、俺も困るだろうが」
とは本人談だが、別段、そういった意味で困った様子はない。
で、そんな魔法使い家系であろうヒューイットくんは、今のところはウィザードらしい。
「え、すごい」
と感想を述べると、ヒューイットくんは首を振る。
「この学校の高等部に入った時点で、ウィザードの資格もらえるんだよ。ユキヒトはあれだ。外部入学だから、入学式にもらえるだろ、称号」
あれ?兄ちゃん、俺、もうウィザードになっちゃったよ。どうしたものかね。
「あっけに取られてるけど、まぁ、色々なれるし、色々やってみるといいんじゃねぇの?リゼルさんみたいに転科もできるし」
それもそうだ。と、俺はうんうんと頷いて、親指でまわしていた指輪をもう一回回してからぴたりと止める。
カチッと、親指のサイズにぴったりになった指輪を感触で確かめつつ、ソファから立ち上がった。
「うん、とにもかくにも今後ともよろしくお願いします」
といった俺に、二人とも大きく頷いてくれた。
ちなみに、今不在のクラウくんもウィザードだそうだ。
リゼルさんが特殊なだけで、普通はウィザードはウィザード同士で部屋が組まれるそうで。
なんだかある意味得した気分だなぁ。
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