魔法世界には、今現在、何かといった大きな災厄や戦争などはない。
勇者も必要なければ、襲ってくるモンスターもいない。
軍はあるけれど、それはもしものために用意されているもので、今は縮小の一途を辿っている。
平和な魔法世界には、平和なりに問題がある。
平和になると人というのはいろいろなことに飽きてくるらしい。
とくに金を持て余し、毎日を働くことではなく金を使うことに費やしているような人間にとって、平和とはただの暇な時間であるようだ。
暇ならば刺激が欲しくなる。
私兵を作り戦わせることが流行り、闘技場なるもの、闘士なるものができた。
それだけでは飽き足らす、珍しいもの、綺麗なものを収集し、部屋に飾ることも流行った。
今では闘技場は魔法世界の娯楽として発展し、私兵の非合法なものではなく合法的な娯楽となっている。
珍しいもの、綺麗なもの…激減した動植物を狩ることは違法行為となってはいるが、それゆえさらにそれらの価値が高まった。
そして、違法行為を働くハンターたちは増えた。
それを取り締まる集団や法律もできたのだが、それだけでは追いつかないのが現状である。
「竜なんて、死体で手に入れても全身くまなく使えるし、生きて捉えたら珍しいペットとしても使える。…場合によっちゃ、そういう、使い方もできる…変化したらたいてい、美形だし」
死体で手に入れるのも難しい竜を生きて捉えようなど愚の骨頂。
ヒューを殺して手に入れようと欲をかくハンター達を相手に、ヒューは逃げているらしい。
なんの誓約も受けていない竜、しかも、ヒューほどの腕利きならば、勝負は一瞬なのではないかと思えた。
どうして囮になったのか。そして、兄はどうして囮にしたのか。
俺が答えにたどり着くまえに、ユスキラさんがつまらなさそうに鼻で笑った。
「あいつらは獣をいぶり出すために、森を燃やした」
「…ここは、見ての通り怪しい森だからな。俺たちの演習にまじって入ってきたんだろ」
「そうでもない限り、ここは竜に守られているから人間なんて入りようがない」
燃えていく森を前に、ヒューが殺気立ったのは言うまでもない。
その近くにいた兄はヒューに冷たく命令をしたらしい。
囮になれと。
「森への被害軽減とあいつらをしょっぴくための時間が欲しかったんだと、思うんだよね」
火をクラウが消化したのだろう。
あたりが水びたしになっていた。
それを知ってか知らずか、再び何かの植物がこちらに手を伸ばしてきたのを見て、ユスキラさんが動く。
植物の蔦…いや、触手と言っていいだろうそれを切り捨てながら、ユスキラさんは続ける。
「コレが意外と面倒だったんだよねぇ…悪食の捕食植物なんて使ってくるし、おかげでアチラコチラがネットネトのベッタベタ」
「よくある思春期な話じゃただのエロい話なのに、捕食とあっちゃこっちも必死だよな」
「まったくだよ。きもっちわるいし、食べるためにやたらしつこいし。矢、当たった?」
どうやら先ほどの矢は、その気持ち悪い植物に向けて放たれたものらしい。
「あたったみたいだが、粘液のが勝った。炎上するほどの強さがなかったみてぇ」
「うわあ、きっもちわる」
ちゃんと見た訳ではないが、想像するだけでも気持ち悪い。
所謂唾液、もしくは体液のようなもので、消化されたとおもったら、気持ちが萎える。
「つまりとにかく…ハンターとっちめるのを手伝えばいいわけですね」
気分を変えて問うと、兄の友人は二人してサムズグッドを俺にくれた。
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