魔法使いの呟き


森を育み、守るのは森の妖精…つまるところエルフという長寿の種の一族の仕事だ。
今、燃えている森もエルフに育まれ、守り続けられてきたものだ。
その森という場を護るのが、森の主人たる種となる。
時に神様だったり、神様になったりするそれは、この森に限っては代々ラクリゼアの竜が受け持つ。
昔は、森を荒らし、森の資源を根こそぎ奪おうとした者達に狙われ、現在はレア種の所在地として森に住んでいる者たちが狙われる。
竜はこの森に結界を築き、悪意ある者達を迷わせ、生きてきた。
外部と接触を断ち切れば、彼らの平和は守られていたかもしれないが、彼らは外部との接触を断つことはなかった。
世界を断つことは彼らを少しずつ生きづらくし、そのうち滅びる道をたどることを知っていたからだ。
しかし、外部との接触を持っても彼らは変わらず絶滅への危機へと歩み続けている。
例え他の種族と良好な関係を保っていたとしても、それが他の種族の全体に言えることではなかったのだ。
特に人間は一番数が多く、すべてを掌握するには分布も広く、皆に一様の認識があるかどうかすら怪しい。
そして今回はその一様の認識があっても、それを凌駕する欲望ゆえに起こったことであり、彼らを招いてしまった原因も外界の接触という、滅びへの対処からくるものだ。
「何も俺がきてる時に事件を起こしてくれなくてもよくない?」
思わず呟いてしまった俺は、ついさっきまで友人たちに非道だ冷酷だと罵られていた。
冷静に判断しただけなのに、それはない。
けれど、人道的に考えたら非道で冷酷だったと思う。
簡単に言ってしまえば、自分と契約してくれた、しかも竜という貴重な種族を囮にして捨ててきたのだから。
より多くを救うために少ない犠牲を出すという方法で、所謂単純な引き算だ。
それは、多くに好まれるものではない。
人間の身勝手で危機に面しているのなら、人間が責任を取るべきだろうとは思うのだけれど、囮にしてきたヒューイットくんが犠牲になることなんてまずないことだと思う。
竜という種族は貴重で、その生態をよく知られていない。
だから、不老不死の霊薬になるだとか、不治の病が治るだとか謂れのないことを信じ続けられている。
彼らの実力にしても、中の上程度の実力の人間ならば一人や十人いたところでが力及ぶものでもないにも関わらず、強大であると信じられていても数さえ揃えばなんとかなると思い込む。
竜にも種類があり、その中でも強く、一級品と言ってもいいほどの竜であるヒューイットくんがそんな思い上りをしている連中にどうにかされるほどのことはない。まして彼がラクリゼアの竜でなければ皆殺しであったに違いなかった。
場を護るために存在する種や一族は、大概、その場を乱す、荒らす、壊すものを蛇蝎のごとく嫌うものなのだから。
森に火を放つだなんて、恐ろしいことをやらかした人間くらい皆殺しにして当然といったところだ。
彼がそれをしなかったのは、俺が命令したからというよりも、彼の父親がなんの行動も起こさなかったからということが大きい。
ラクリゼア当主であるヒューイットくんの父イーディアスは、守護する場に何かあった場合、いの一番にそれを察知することができる。
それなのに、未だこちらに来ていないということは、ハンター達を皆殺しにすることを良しとしないということだ。
一族の当主のすることは、絶対なのだろう。
ヒューイットくんは音沙汰のない父を待つ間、俺に従ってくれる気でいるらしかった。
「だいたい守護契約程度、しかも変則の契約じゃ、命令なんて拒否し放題じゃんねぇ」
ポツポツと呟きながら、弟たちに今の状況を伝えるために爆風と爆音、炎の中を突っ走る。
爆音のせいで誰にも何も聞こえてないのをいいことに俺は言いたい放題だ。
面と向かって言ってもいいのだが、また文句をいわれるのはわかっているため、言わない。
俺は水が作るドーム型の結界に向かって割り込みをかける。
魔法はイメージである。
他人のイメージに割り込むのは容易なことではないが、阻害することや、干渉することができるのだから、できないことではない。
穴を開けるイメージではなく、扉を開くイメージをしながら、俺は、うまくいかないイメージをブツブツと言葉に出す。
ユスキラあたりなら、スパッと切ってしまうだろう植物の触手を、切るというより大剣で叩いて分断させながら、いつの間にか隣にやってきたローエルが首を傾げた。
「魔法ってそんなんだったか?」
いや、違うけどね?
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