Magic Time


俺の魔法の師は兄だ。
でも、俺と兄では魔法の使い方が違うと兄はいう。
俺は兄に教わったとおりイメージした。
火はちょっと怖いし、水はびちゃびちゃになるし、風と比べれば解りやすいからという理由で地の魔法からはじめた俺は、今や地の攻撃魔法は詠唱を破棄して使える。
魔法って奴をあきらめかけていた俺にとって、魔法を教えてくれた兄は、俺とは魔法使用レベルが違おうとも、しかも俺が兄よりレベルが高かろうと、いつまでたっても尊敬すべき存在だ。
魔法がすべてそれなりに使えるというのも、俺が尊敬してやまないところだ。
…急にピンクの髪の毛になったり、急に人を弄ぶような口振りになっても、変わらず尊敬している。
それに俺は、ただならぬお兄ちゃん子だ。
だから、高校生だからとかっこつけて人前で兄貴と呼んでいても、咄嗟の時になると思わず言ってしまうのだ。
「兄ちゃん!」
クラウの結界から出てきた兄は例のやな感じの植物に狙われていた。
触手が兄にのび、兄の腕に絡まる。
思わず兄に向かって叫んでしまった俺と違い、兄は余裕そのものだった。
「あーれー」
余裕すぎてなんか腹が立った。
「ユキのお兄さんは大丈夫だよ、あれはわざとだからね」
クラウが近寄ってきて、俺に向かって優しく微笑んでくれた。
いつだってプリンスはプリンスである。
「核を切り捨てにいくそうだ」
クラウと一緒にかけてきたリゼルさんが説明してくれて、俺は兄が触手に捕まった意味を理解した。
このまま触手に核のあるだろう場所に案内してもらうつもりらしい。
「『援護よろ〜』だそうだ。アークは特に、ミヒロが身動きできる程度に触手をなんとかしてほしいそうだ」
「友人使いの荒いやつめ…」
そういいながらも、ちゃんと、兄に近寄るたくさんの触手に矢を射るアークさん。
ユスキラさんはリゼルさんがこちらに来たとき、少し表情を変えたが、すぐにため息をついて、兄の伝言に従った。
「みったんまってて!今助けにいくからー」
こちらも余裕綽々である。
「人の心配なんだと思ってんのかなぁ…」
俺の呟きにローエルさんは俺の肩をたたいて苦笑した。
「しおらしいミヒロなんて酷いものだろう?」
尊敬する兄にたいして、あんまりだと思うのが、盲目的なブラコンなのだろうと、兄が兄なだけに、その通りだと思ってしまった。
ピンクに弾ける前は、ちょっとぶっきらぼうなくらいの人だったのに、何かあったとしか思えない兄を、おとなしく援護することにした。
兄の援護はそう難しいことではない。
やたらと再生力の高い触手を兄をつれていくもの以外すべてたたき落とせばいい。
俺はイメージする。
指輪が鈍く光るのを視界に収めながら、さらにイメージする。
地面が波たつ、うねる触手を串刺す、針のような、鋭すぎる山のような、小さくはない、有害な、何かを損ねる、形。
「剣山」
地面からいくつも立ち上がったそれは、まさに剣山そのものだ。
そのするどい針のようなものにふわりと着地してユスキラさんがこともなげに、俺の魔法から逃れた触手を切り落とした。
「さすがちがうな」
と言ったのは俺のそばから離れず矢を放つアークさんだった。
「スティファードのウィザードだし、当たり前、か?」
「いやいや会長とかに比べると見劣りしますよ」
リゼルさんが兄の姿を視線で追いながら笑った。
「学園一のウィザードと比べられるレベルというのは、謙遜すべき立場ではないな」
もしくは、相手が悪すぎるというものだ。
リゼルさんは実に楽しそうにそういったあと、地を蹴った。
「この程度の距離なら魔法も必要ないなんて…それも僕には羨ましい話なんだけどね」
リゼルさんとクラウは兄から直接作戦を聞いているようで独自に動いている。
クラウは何かを待っているようであり備えているようであった。
「ファスティートってだけで魔法世界にとっちゃトップブランドで嫌味な話だけどな」
ローエルさんがため息をつき、リゼルさんに続く。
リゼルさんもローエルさんもただ兄を追いかけ駆けていく。
「俺も追いかけるべきなのかなぁ」
「ううん、遠距離攻撃部隊はこのままでいいみたい」
「んーじゃあ、気持ちだけ」
俺は地面に手をつく。
「此処は繋がれた地、すべては繋がれた場所、察知」
地面の上に立っている熱源を察知するための魔法なのだけれど、例の植物が熱をもっているか否かはちょっとわからない。動いているんだから熱くらいありそうだが、俺の触っている地面に触っていないのならまた話は別だ。それに、根がはっていると結構曖昧になってしまうこともあるし、地中にでかい熱源があるとそれからも邪魔をされてしまうため、あまりいい魔法じゃない。
けれど、今動き回っている兄達をさぐるのにはいい魔法だ。
やたらあっちへこっちへと飛び跳ねているのは、たぶんユスキラさん。すごい速さでそれを追いかけてる二人がリゼルさんとローエルさん。兄は植物によって運ばれているから熱は感知できない。 俺はリゼルさんとローエルさんが走っていく方向に兄がいると仮定し、すごい速さで移動している彼らの位置を予測する。
「アークさん、皆の位置わかりますかー」
「なんとなく」
「そうですか。この状態で魔法はやっぱ、危険ですかね」
「あいつらなら平気だろ」
他人ごとのように答えたアークさんはまた矢をつがえた。キリキリと何かが引っ張られる音を聞きながら、俺は魔法を発動させる。
「投石」
「…なんというか…おまえ、あいつの弟だな」
…兄は尊敬すべき存在だ。
けれど、コレは褒められている気がしない。
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