ちなみに、アークは火の攻撃魔法が得意で、遠景を見るための魔法として風の補助魔法も少々使えるが、水はからっきしであるし、ローエルも魔法は使えるものの、この大火事を消火しきれるほど水の魔法が使えるわけでもない。弟に至っては地属性ばかりに突出していて、しかも他の属性は攻撃の申し子かというくらい補助魔法が使えない。水の攻撃魔法とか怖いので頼むことができない。リゼルさんも補助は自信がないとの自己申告があった。
だから本当に、俺はクラウくんを頼りにしている。
俺は一応消火活動ができるのだけれども、この最大出力の火の攻撃魔法で疲れきったあとに水の補助魔法をせっせと使わなければならないのが嫌で、クラウくんに大事な消火活動を押し付けた。
そんなこんなと俺のずさんな作戦を反復している間に呪文は完成する。
「燃やし尽くせ。火焔包(かえんほう)」
俺を中心に広がった炎は、まったく俺に優しくなかった。
じわっと酸に焼かれていた肌が、今度は魔法の炎がつくる熱気で焼かれた。
先程からヒリヒリヒリヒリと非常に痛いのだが、我慢我慢の男の子。
……叫んでいいか?
魔法の炎は俺をやくことはないが、植物を燃やした熱気が非常にいたい。俺は熱されて熱いだろう武器を思い切って握る。
もうすでに嗅覚は麻痺していたが、痛覚はまだまだ健康的だった。これも非常に痛いのだが、このまま植物の中にいたら痛いどころでは済まされない。
燃やされ、隙間ができたそこで戦斧を振るう。
重い感触が手首に、腕に伝わってくる。上手いこと振るえなかったせいで、余計な怪我を増やしたようだったが、俺は植物の腹に出来た隙間をこじ開けるように、もう一度戦斧をふるった。
人間、命が掛かっていたら、痛かろうと必死である。
植物の腹を蹴り、俺は植物の腹の中からめでたく脱出。
俺が出てきたのを見て、すぐさま俺に近寄り俺の手をとって俺を投げてくれたリゼルさん。
投げられた俺を見事にキャッチして、大きなため息をついたローエルに逆さに抱えられたまま、俺はリゼルさんが燃える植物から離れるのを確認した。
「バースト!」
声を張り上げると、植物は腹から破裂し燃え上がる。
「お前なぁ…」
なにやら渋いものを食べたような声を出すローエルは、それでも俺をゆっくりと地面へとおろしてくれた。
俺が地面の上に大の字になって転がっていると、ほどなくして雨が降ってきた。
いや、雨がふるなんてそんな生温い表現ではすまされない。
スコールだ。
正直、肌に痛い。
というよりも、身にいたい。
満遍なく肌をやくには短い時間だったようだし、服というものも存在したので、すべてを火傷しているわけではないのだが、ところどころでも痛いものは痛い。
身体を反転し、もそもそと地面を這ってなにか雨を避けるものを探す。
不意に、雨がささらなくなり俺はなんとか上を見る。
「これくらいならなんとか。けど、回復は無理だぞ」
友人の優しさが身にしみる。
ローエルが雨よけに小さな結界をはってくれていた。
それはすべてをおおってしまう結界ではなく、盾にするための結界だ。
俺は礼を言おうと思ったのだが、喉も痛めてしまったようだった。
なので、精一杯笑っておくことにしておいた。
「顔も酷い有様なんだから、笑うんじゃない」
森は、刺すような雨が盛大な音を立てるものの、いやに静かだった。
一段落ついてリゼルさんがこちらにやってきて、俺の惨状をみてこう言った。
「…それ、ヒューが怒るんじゃないか」
「友人としても怒っておきたいくらいだからな」
いやいや、友人よりは浅いかもしれない仲であるゆるい守護契約してるだけの竜が、この程度で怒るだろうか。
俺は顔が痛いにも関わらず笑ってしまった。
「いや、だから笑うな」
「男前台無しだな」
「人相がさらに悪くなるな」
声を出すと喉が痛いので、言わないが、大変酷いことを言われている。
言われているが、笑うなっていうわりに、ちょっと面白いことを言わないでもらいたい。
やはり、俺はちょっと笑ってしまったわけだ。
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