ユスキラさんがこちらに戻ってきて、クラウになにやらお願いすると、クラウが魔法を使った。
クラウが魔法を使うと、トタン屋根に大雨がぶつかっているような音が響いた。
恐らく兄がいるだろう場所は白いもやのようなものがかかるほど雨がふっていた。
「大丈夫、でしょうかね…」
「大丈夫っしょ。ローエルも、……リゼル・グランセルもいることだし」
心配そうに雨が降っている場所を眺めるクラウとは違い、何か気に入らないものを見るような目でユスキラさんは、そこを眺めていた。
「あとは、ハンターどもか」
雨が降っていた方向を睨むようにしていたユスキラさんが、アークさんの言葉に反応したように笑った。
「や、大丈夫っぽい、ほら」
ユスキラさんが指差す方向に、何かが飛んでいた。
それは巨大で、おとぎばなしなんかにでてくる架空の生物によく似ていた。
「…竜…」
俺が思わず呟くと、竜はあっという間に大きくなった。
いや、大きくなったのではない。
こちらに飛んできていたのだ。
最初から空を見上げていたのだが、地に降りても、竜は見上げなければその顔を拝むことはできなかった。
顔を拝むといっても、風で吹き飛ばされない程度とはいえ、わりと近くに降りてきたために見上げてもまともに、見れるものではない。
地に降りたと思うとすぐにその姿は淡い光の塊にかわり、姿形をかえた。
ヒューだった。
「ハンターどもはオヤジが回収した」
「ご苦労さま」
「おー」
曖昧に頷きながら、ヒューはあたりを見回した。
「兄貴なら、ここにはいないけど」
「ハァ?」
睨みつけられても、俺にはどうしようもない。
「みったんなら、たぶん、あの雨の中」
ユスキラさんが指を差す。
ヒューは片眉だけ上げるという器用なまねをして、雨が激しすぎて霧を出している場所を睨んだ。
「……お前ら似てんだよ、気配が」
兄の元に飛んできたつもりで、俺の元に飛んできてしまったらしい。
「ごめんね、兄貴じゃなくて」
「いや、別に」
たいしたことじゃないようではあるのだが、一瞬残念そうな顔をしたのを俺は見逃さなかった。
これって主人に向けるだけの顔なんだろうか。
「じゃあ、ちょっくら行ってくるわ」
「あ、いってらっしゃい」
俺が手をふると同時に、ヒューは軽く地面を蹴った。
そのまま一瞬にして姿を変え、竜になって飛び立っていってしまった。
「竜かっけー…」
「僕はあの質量をどうやって変幻させてるかのほうが気になるよ」
魔法ってことで良くないんだろうか。
魔法世界の人が不思議に思ってるんだからダメなんだろう。
「さて、どんな姿で帰ってくるやら…」
ユスキラさんのつぶやきは、ヒューのかっこいい竜姿に圧倒されていた俺には聞こえなかった。
後ほど、酷い格好で帰ってきた兄に、絶句したのは黄金週間のいい思い出なのかもしれない。
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