「……ば、かか…」
驚きのあまり区切りがおかしくなっているヒューイットくんの言葉と、泣きそうなそれでいて何か悔しそうな、かつ俺の姿に呆然とした、ちょっと間抜けな顔が面白くて、また笑う。
笑うと顔が痛いというのに、今に限って何故人は面白いことを言ってくれるのだろう。俺がハイなだけなのだろうか。
ヒューイットくんが俺に手を向ける。
それだけで、ヒューイットくんの意思通り魔法が発動する。
竜の姿で、雨が降り止もうとしているこの場に降りてきたヒューイットくんは、竜らしく魔法を使うのに杖を必要としない。
もし、彼が杖を使っていたとしたら、それは偽装だ。
竜と人とでは魔法の使い方が異なる。
もしかしたら、彼らにとっては保有の能力であって魔法ですらないのかもしれない。
ヒューイットくんの使った魔法は、風の補助魔法。
回復の魔法だった。
あっという間に治ってしまった表面の傷やひねってしまった手首を触りながら、俺はヒューイットくんに向けて喉を指差す。
「そこもかよ」
回復魔法というやつは無差別にあらゆるものを回復する便利なものではない。
どこが悪いかを認識していなければ治ることはないのだ。
俺の手首は腫れていたし、火傷は皮どころか皮膚が禿げて大変なことになっていたので、見て分かるものだった。
けれど、喉は流石にみてわかるものではない。
「サンキュ、ヒューイットくん。これで、貸し借りなしってことで…」
元気になったら調子がいいのは、俺らしい。
ヒューイットくんはすぐに微妙な顔をしたが、首を縦にふってくれなかった。
「今回のことがあるし、命の恩人を傷を直した程度で…」
命の恩人って大げさな。結局はヒューイットくんのちからも借りて、あの場を脱したというのに、本当に頑固な竜である。
だいたい、命の恩人ということで命を投げ出されては大変重たいことなのでやめてもらいたい。
それこそ、俺が気になるので、本当にやめてもらいたいことなのだ。
「あのねぇ、ヒューイットくん。俺がもういいったらいいんだから、ほら、そこは主人に従って」
「…いや、お前は主人じゃねぇし」
主人扱いじゃないのか、守護契約みたいなものなのに。
俺は一度頭を抱えたあと、立ち上がり、ローエルとリゼルさんに軽く頭を下げる。とりあえず、ヒューイットくんとの契約は棚上げである。
「さっきはありがとう」
「いや、人相悪くならなくてよかったな」
「まったくだ。ちょっと楽しみだったが」
男前が台無しになるというプラスの物言いから人相が悪くなるというものいいに変わっていたのは少々ショックだったが、友人が付け足すように言った言葉に、俺はポツリと呟く。
「靴に小石でも詰まって不快な思いでもしろ」
その言葉の通りの魔法が発動し、おそらくローエルは不愉快な思いをしただろう。
「ちいせぇ…」
思わずつぶやいたヒューイットくんには悪いけれど、俺はとても小さな男である。
「そうそう、だからこんな小さな人間とはさっさと契約切ってだね…」
「いや、それとこれとは別だろう?」
「いやいや、守るならいい人まもりなさいよ」
眉間に思い切りシワの谷を作って、ヒューイットくんが俺から顔をそらした。
「小さいし何かと言っては契約切りたがるし、盛大に怪我して笑ってやがるし、人の心配してんのも笑ってやがるし、最低最悪だが……悪かねぇよ…」
ちょっと、助けたくらいで評価が高すぎである。
もしかしたら、交換日記のせいかもしれないけれれど。