「ところで、今度の野外演習って何?」
「ちゃんと先生のお話くらいは聞こうね」
「はーい」
リゼルさんとヒューはクラスが一緒だけれど、魔法ランクが違うため演習が一緒ではない。
クラスは違うがランクが同じ為、一緒に野外演習に出かけることになっているクラウに聞いてみると、クラウが小さな子供に話しかけるように優しくそう言ってくれた。
俺は小さな子供のように聞き分けよく返事をする。
「お前ら仲いいなぁ」
リゼルさんが、部屋に帰ってきて開口一番にそう言った。
風紀のツートップがクラスにやってきたということで、久しぶりついでに風紀委員会に顔を出してきたリゼルさんは、俺やクラウより帰ってくるのが遅かった。
「あれ?ヒューは?」
「…途中までは一緒だったんだがな。今日から種族的な理由で別部屋だと」
ヒューはなんでも、風紀委員会に用事があるとかでリゼルさんと一緒に教室を出て行ったので、一緒に部屋に帰ってくるかと思いきや、リゼルさんが一人で帰ってきた。
「別部屋?え、ずっと?」
「いや、14日間ほど?悪くすれば21日間とか」
「ほぼひと月じゃん」
リゼルさんは肩を落として首を横に振った。
リゼルさんは理由を知っているかもしれないが、答えるつもりはないらしい。
クラウと俺は二人して顔を見合わせる。
「制御不能による人化失敗」
「いやいや、ここはヤンキーっぽく謹慎処分を種族的な理由という嘘でごまかしていると…」
「それは、有り得るかもね…」
「結構ひどいな、お前ら」
楽しそうにリゼルさんは笑ったあと、その笑みを残したまま、ヒューが別室にいく理由をこう称した。
「ま、思春期って意味では似たようなもんだ」
「思春期!」
「よし、今度会ったらからかってやろう」
リゼルさんは、なお笑う。
「そうしてやってくれ。しかし、本当、ひどい奴らだな。そのノリ、嫌いじゃねぇけどな」
本当にひどいのは兄のような人のことをいうのだと俺は思っている。このくらいは序の口だ。
「で、話は戻して野外演習だよ」
「ヒューのことはもういいんだ?」
「いいよ、どうせ明日も会うんだからクラスで」
リゼルさんは切り替えの早い俺と、ちょっと呆れているクラウを共同スペースにおいて、自室に向かった。
俺はそれをチラリと横目で見送って、クラウとの会話を続行する。
「今度の野外演習は、魔法影響力の強い場所における魔法干渉の観測。簡単にいうと、魔法の影響が強いところで魔法を使うとどうなるのかな!やってみよう!見てみよう!って感じだね」
クラウが噛み砕いで教えてくれたのだが、試験前に暗記して詰めるだけ詰めて試験が終わったらかなり忘れる俺でも、魔法影響力の強い場所における魔法干渉の観測くらい解るのだが、クラウは俺のことをどう思っているのだろうか。
ちょっと手のかかるルームメイト的に思ってないだろうか。
ちょっとこれは名誉挽回しなければならない。
今度の野外演習ですればいいのかと思いながら、俺はうんうんと頷く。
「ありがと。演習ってどこでやるってか、どうやっていくの?」
「うん、演習をやるのはアルデリアレイク。行き方は…ふふ、お楽しみ」
魅惑の王子さまスマイルをいただいてしまった。
「了解、アルデリアレイクってなんか遺跡のある湖だった気がするんだけど、ツッコミはなしな感じ?」
「なしな感じでお願いします」
王子さまは微笑んだまま、ゆっくり頷いた。
クラウの王子さまスマイルはなんか、本当に笑っている時と誤魔化すために笑っている時がある気がする。
気のせいでなければ、だが。
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